第30話

「ついてこいレグルス。これからお前には第二王子であるこの片腕として、やってもらわなければならないことが山ほどあるのだからな!」


ノーティスは上機嫌な様子を見せながら、レグルスに対してさっそくそう命令した。

そしてそのままこの場を後にしようとする中で、その心の中でこう言葉をつぶやいた。


「(すべては作戦通りにうまくいった!これで正真正銘、聖獣レグルスの存在はこの俺のものとなった!まぁ褒められたやり方ではないというのは承知の上ではあるが、どんな手を使ったところで結果は同じなのだから別に構いはしないだろう。例え最初はエリッサになついていたとしても、最終的には第二王子であるこの俺になつくに決まっているのだ。それを多少強引な形で推し進めただけで、結末は変わらないのだからな……?)」


心の中でそこまで言葉をつぶやいたその時、ノーティスはふとレグルスの方に視線を移した。

するとそこには、全く自分についてくることなく、その場に座り込んでくつろいでいるレグルスの姿があった…。


「おい、いつまで寝てるんだ!もうエリッサはいないんだぞ!つまりお前の主人はもうすでにこのノーティスになったんだ!聖獣ほどの頭脳を持っているなら簡単にわかることだろう!!」


やや感情的に声を荒げるノーティスだったものの、当のレグルスはまったく耳を傾ける様子はなく、相変わらずその場でくつろぎ続けている。


「(お、おのれ…!!。この俺をバカにしよって…!!こうなったら…!!)」


するとノーティスは急ぎその場から立ち去っていき、しばらくした後に再びこの場所に戻ってきた。

その右手にはパーティーで振舞われていた極上肉が抱えられており、ノーティスは自信満々な表情を浮かべながらこう言葉を発した。


「ほれほれレグルス、腹が減っただろう?私の言うことをちゃんと聞けば、褒美としてこんなものが食べられるんだぞ??すべてお前のために準備した特上品だぞ!ほれほれー」


ひらひらとその手に肉をアピールしながら、ノーティスはレグルスの気を引こうと必死になる。

が、それでもレグルスはノーティスの方になつこうとはしない…。

そんな様子を見かねたシュルツが、ノーティスに対してこう助言を行う。


「…ノーティス様、聖獣を前にしてそのような餌付けは無謀すぎるかと…」

「そ、それじゃあどうすればいいというのだ!お前ならどうやって聖獣をなつかせる!」


ノーティスの発したその言葉に対し、シュルツは表情を変えずにこう答えた。


「そんなもの決まっています。エリッサ様にお願いをして、再びここに戻ってきてもらうのです」

「は、はぁ!?」


シュルツが興味を持つのは聖獣よりもエリッサの方であるため、彼は迷いもなくそう言い放って見せた。

予想だにしていなかったシュルツの言葉に、ノーティスはこの上ないほどの大きな声を上げた。


「ほ、本気で言っているのかシュルツ!?」

「もちろんでございます。ノーティス様、第二王子であられるあなたがその頭をおさげになったなら、きっとエリッサ様も許してくれるかも知れません。…もちろん、そう簡単に謝罪が受け入れられるとも限りませんが、それでも今はエリッサ様に謝るのが一番の」

「ふ、ふざけるな!!第二王子であるこの俺がどうしてあんな女に頭を下げなければならないのだ!!そんなもの絶対に認められるか!!」


シュルツの提案を断ったノーティスは、その勢いのままにレグルスの方に近づいていき、強引に連れて行こうと試みる。


「いいから来るんだレグルス!!この俺が直々に命令しているんだぞ!!断ることなどたとえ聖獣であろうと許されないのだ!!」


そう言葉を発しながら、レグルスの体を手でつかもうとしたその瞬間。


バチイィィィッ!!!!

「がはぁっ!!!」


大きな火花が光を放ち、同時に火薬のような音が周囲に響き渡った。

ノーティスはその衝撃でレグルスのそばから弾き飛ばされ、体をうずくめる。


「な、なにをするレグルス…!こ、この私を攻撃するなどと…!!」


ノーティスは自身の右手を軽くやけどしたようで、右手をかばうように体を伏せている。

…レグルスの頑固さの前にいよいよ頭に血が上った様子のノーティスは、その思いのままにシュルツに対してこう命令を下した。


「シュルツ!!!パーティーを開くにあたって王宮の周りに見張りの兵を外に置いていたな!!そいつらを全員ここに連れて来い!!…こんな手は使いたくはなかったが、こいつがその気ならやるしかないというもの。全員で引っ張ってここから連れ出すんだ!!いいな!!」


…もはや意地になっている様子のノーティスに対し、シュルツは努めて冷静な口調でこう告げる。


「ノーティス様、それはおやめになられたほうがよろしいかと…。今はノーティス様に対する信頼関係が全くないためにこうなっていると思われますので、強引なやり方はむしろ聖獣の機嫌を損ねてしまうだけかと…。やはりエリッサ様に」

「あぁもううるさいぞ!!お前はどれだけエリッサを気に入っているんだ!!まさかやつからマージンでも受け取っているのではあるまいな!!」


エリッサを気に入っている。

ノーティスの口から発せられたその言葉を聞いて、シュルツはどこか満更でもなさそうな表情を浮かべた。

しかし、発せられた命令には従うのが臣下の仕事。

シュルツはノーティスから言われた通り、兵をこの場に集めにかかるしかなかったのだった。

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