第25話

「い、今エリッサって言ったか…??」

「あ、あぁ…。聞き間違いじゃない…」

「た、確かに第二王子はエリッサを自分の妃にすると…」


ノーティスがそう告白した途端、集まった人々の表情は様々な感情で染められていた。

しかし、そのほとんどはエリッサの事を祝う気持ちからくるものではなかった。


「…エリッサ・レクトっていったら、確か関わるだけで一族の全員が不幸になるって有名な、あいつだろう?それが一体どうしてノーティス様の妃になるまで成り上がったんだ…?」

「そんなもん、決まってるだろうが。女の武器を使ったんだよ間違いなく。あーあ、それができるから女は楽でいいよなぁ…」


エリッサがあまり周囲から快く思われていないという事は、彼女の家族を発端として、多くの人々の知るところとなっていた。

だからこそ彼女がこうして成り上がりともいえる出世を果たしたことに、嫌悪感を示す者たちは多かった。


…集められた人々からの鋭い視線がエリッサのもとに向けられ、彼女はその体を一段と強く硬直させた。


「(え、ど、どういうこと…???私、ノーティスと婚約を受け入れるなんて一言も言ってないよ…??それなのにどうしてこんなに恨めしそうな視線を向けられなきゃいけないの…???)」


そんなエリッサの様子を舞台上から見つめながら、ノーティスはしめしめといった表情を浮かべていた。


「(…これだけ雰囲気を作ってしまえば、もはや逃げ出すこともできないだろう。お前と俺の婚約はここに集まった全員が証人となって決定づけられ、聖獣ともどもその存在は俺のものとなるのだ…!)」


心の中でそうつぶやいたノーティスは、自分でもわかるほどにその表情に浮かべていたいやらしい笑みを一旦抑え込み、その顔を真剣なものとしたうえで、改めてエリッサに対してこう言葉を発した。


「エリッサ、私は第二王子として、君を受け入れるとここに決めたのだ。…正直私としては君の事をそこまで思ってはいなかったが、君が私の事を愛して仕方がないという思いを表現してくれたのだから、私としても君を受け入れることに決めた。さぁ、ともにこの国の未来を築いていこうじゃないか♪」


ノーティスの発した”あれほどまでに”という含みを持たせた言葉に、集まった者たちは再び自由な考察を行い始める。


「…やっぱりそうじゃないか。あんまり乗り気じゃない第二王子を誘惑して既成事実を作って、半ば強引に関係を築いたんだ…」

「とんだ悪女がいたもんだなぁ…。自分の娘には絶対にあぁなってほしくはないと思わせてくれるね」

「…おい、本人に聞こえるぞ…。妃になって権力を手にしたら、どんな制裁を与えてくるかわからないんだからな…」


ノーティスが狙ったままに、会場の雰囲気は完全にエリッサにとってアウェーなものとなっていく。

そんな様子をノーティスは肌で感じ取りながら、そのまま壇上を下り、ゆっくりとエリッサの元へと向かっていった。


「…というわけだ。我々は晴れて今日から婚約者を経て、夫婦となる。もちろん、受け入れてくれるね?」


どこか少し威圧的な雰囲気を感じさせながら、ノーティスはエリッサに対してそう言葉を発した。

それに対してエリッサは、ややバツが悪そうな口調でノーティスに言葉を返した。


「え、えっと…。私は別にノーティス様との婚約を受け入れるつもりはありませんので…。ご、ごめんなさい…」

「っ?!?!?!」


…そう言葉を発したエリッサに対して、複数の人物が憎悪に満ちた視線を送りつける。

彼女の二人の姉の一人であるシーファ、そして彼女の母であるユリアであった。


「(な、なによあいつ!!ノーティス様からのお誘いを断るなんて、私へのあてつけのつもり!!この期に及んでそんなことをするなんて、どこまで性格が悪いのかしら…!!)」

「(間違いないわ!!私がノーティス様に気があることを知っていて、わざとそんなことを言っているんだわ!それで自分の方が私よりも優位な立場なったとでも言いたいわけ…?ほんとなんて小さい器なの…)」


と、エリッサに対してすさまじい殺気を放つ二人であったが、当のノーティスはうろたえることなく、非常に冷静に言葉を返した。


「まぁ、いいじゃないか。君のお父様からの約束はすでにとりつけ、その証書もすでにもらっているんだ。もう我々の関係は結ばれたもどうぜ…」ボフッ!!!!「っ!?!?」


ノーティスが自身の懐から一枚の紙を取り出し、エリッサに対して提示をしたまさにその時、その紙が勢いよく火柱を上げて燃え始めた。


「あ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!せ、せっかくの証書が…!!!あ、あっつ!!!」


…一瞬、一体何が起こったのか分からないノーティスだったものの、彼はすぐに事態の黒幕を見抜き、その者に対して強い視線を送った。


「(…お、おのれレグルス…。また私に逆らうような真似を…!!)」


ノーティスは低い口調でそうつぶやきながらレグルスをにらみつけるが、当のレグルスは涼しい顔を浮かべて素知らぬ表情を見せる。

その様子がさらにノーティスの心にレグルスに対する憎たらしさを生み出すものの、ノーティスはなんとかその感情を押しとどめ、エリッサに対して別の言葉でのアプローチを試み始めるのだった…。

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