第24話

「(さ、さっさとプログラムを進めるんだ…。まったく、どこまでも不愉快な連中め…)」


ノーティスは急ぎ足で中年貴族男性から距離をとると、その勢いのままに会場中央に設けられた小さな舞台上に上がり、この場に集められた人々に向けて言葉を発し始めた。


「こほん…。皆様、本日はこの記念すべき日にこの会場まで足を運んでいただきまして、誠にありがとうございます。このパーティーを主催した主催主、かつ王国を導く第二王子として、重ねて感謝申し上げます!」


ノーティスが挨拶を始めるとともに、それまで雑談に花を咲かせていた人々はその口を閉ざし、一斉にノーティスの方にへと視線を向ける。

会場中からの注目を集めながら、ノーティスはそのまま言葉を続けた。


「さて、突然ではございますが、本日は皆様に重大な発表がございます!どうか聞き逃すことのないようご注意くださいませ!」

「???」


聞く者を煽るようなノーティスの言葉に、人々はその興味をそそられ、一体何事かとざわめき始める。


「…第二王子からの突然の重大発表…。新しい兵隊の編成とかだろうか?」

「いやいや、王位の継承に関する話じゃないか?いまだに第一王子と第二王子は不仲だって有名だし…」

「王族関係者の入れ替えをするとかか?だれが追い出されることになるのかは知らんが…」


集められた人々が小声で口を開き、それぞれ自由に自分の予想を口にする。

それらはノーティス自身の耳には届いていないものの、決して誰にも当てられないであろうという自信がノーティスにはあった。


「くすくす…。皆さん、いろいろな予想をしてくださるのは大いに結構なのですが、きっとこれを当てられる者はいないと思いますよ。……というのもこのノーティスは、ある女性との婚約を受け入れることを決めたのです!」

「「っ!?!?」」


旨を張って堂々とそう告げてみせたノーティスの言葉を聞き、集められた人々は例外なくその表情を驚きで染めた。

カサルたちやシュルツなど、話を事前に聞いていた一部の者たちを除いて、他の者たちの興味ははノーティス第二王子の婚約相手が一体どこの誰であるのかに向けられた。


「こ、婚約って…あ、相手は一体誰なんだ…!?そんな話、噂だって聞いたことがないぞ…?」

「決まってるだろ…。第二王子クラスの相手ともなれば、隣国の王族令嬢とかだろうさ」

「そりゃ政治色が強すぎるだろ…。あえて王宮の中から選ぶとかもありなんじゃないのか?」


先ほどに続き、再びそれぞれの人々がが自由に予想を始める。

…そしてその中には、エリッサ本人も含まれていた…。


「(ノーティス様の婚約相手、もう決まってたんだ。私以外の人にもアプローチをかけていて、先に返事が来た人と結ばれることを選んだのかな?いったい誰なんだろう?…まぁ私には関係ないしいいか…!)」


エリッサは心の中でそうつぶやきながら、隣に座るレグルスとともにまったりと食事を楽しんでいた。

彼女にとってはノーティスの話を聞くことよりも、うれしそうに食事をするレグルスの表情を見ることの方が大事だったのだ。


「レグルス、おいしい?」

「♪♪」


エリッサから差し出されたお肉を、レグルスはむっしゃむっしゃと次々に頬張っていく。

それは先ほどシーファに差し出されたものと全く同じ食材なのではあるが、やはりレグルスにとっては食材そのものよりも相手がエリッサであるということが一番大事らしい。


そんな風にして、一切ノーティスの方に意識を向けてはいなかったエリッサだったものの、彼が次に放った言葉によってその雰囲気は一変させられることとなった。


「いえいえ、発表を引っ張ってしまって申し訳ない。もしかしたらこの発表は、皆様の度肝を抜くものになるのではないかと心配しておりまして…(笑)。ただ、これ以上もったいぶっても仕方がありません。ここではっきりとその相手を発表させていただきましょう。第二王子の妃として選ばれたその相手は………エリッサ・レクトでございます!!」

「「っ!?!?!?」」


…その瞬間、集まった人々の視線が一斉にエリッサの方に向けられる…。

当のエリッサは、なにが起こっているのか一瞬理解できないようで、その体を固まらせてしまう…。


「……え?」

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