第22話
サテラに続いてエリッサの前に、彼女にとっては元家族といえるカサル、ユリア、シーファがそれぞれ姿を現した。
「エリッサ、心からおめでとうと言わせてもらうよ。ノーティス第二王子様との婚約が無事に決まったそうじゃないか」
「わ、私は婚約を受け入れるなんて一言も言っていませんけど…」
そう、エリッサにしてみれば、今日はあくまでノーティスから誘われた食事会に来ただけの事。
ノーティスから差し出された手紙には、二人の婚約をにおわせるようなことが書かれてはいたものの、彼女は決してそれを受け入れてここに来たわけではなかった。
「あらあらエリッサ、そんな生意気なことを言うものじゃないわよ?あなたの母親として、私はノーティス様とあなたが結ばれることを心の底から喜んでいるのだから♪親不孝なことをするものじゃないわよ?」
「(親不孝って…。今まで親らしいことなんて何もしてくれなかったくせに…)」
エリッサの事を迫害し続け、全く愛情をかけてこなかったことなど、今のユリアにとっては存在しない記憶らしい。
二人はエリッサに対してそれぞれそう言葉を告げると、彼女の横に座るレグルスの事を興味深そうに見つめ、そのまま彼に対して言葉を発した。
「ふむふむ、こいつがレグルスか…」
「話に聞いていたよりも数倍、可愛らしいわね♪」
二人はともにいやらしい笑みを浮かべつつ、レグルスに対して言葉を続ける。
「はじめましてだなレグルス。俺はエリッサの父親のカサルだ。お前がエリッサのことを気に入ったのなら、父親であるこの俺の事も気に入ってくれるだろ?仲良くしようじゃないか♪」
「そうよレグルスちゃん。私たちはもう家族も同然なのだから、遠慮なく私たちになついてくれて構わないのよ?遊び相手がエリッサだけなんて、それじゃあなたも退屈でしょう?」
二人はそう言葉をかけながら、レグルスに対してぐいぐいと近づき、その距離を縮めていく。
そんな二人に対してレグルスはなんのリアクションも返すことはなく、そそくさとエリッサの後ろに隠れ、二人との距離を近づけまいとした。
「あ、あらあら…。恥ずかしいのかしら?いきなり私たちが現れたものだから?」
「ククク…。まぁエリッサになつているのも今だけさ。そのうち本当の主人にふさわしいのが誰か、はっきりとわかることだろう…♪」
二人は一旦、この場でレグルスの事を深追いすることは諦めた様子。
「…それじゃあ、俺はノーティス様の所に挨拶に行ってくるとするか…。ユリア、君も一緒に行くか?」
「もちろん。それじゃあエリッサ、またあとでね…♪」
そう告げると、二人はエリッサの前から姿を消していった。
すると今度は、サテラとシーファの二人がレグルスに対して言葉を発し始める。
「ほらほら、おいでおいで。エリッサより私の方があなたは気に入ると思うわよー!おいでおいでー!」
子供をあやすような口調でそう言葉を発するサテラだったものの、レグルスは全くサテラの方に見向きもしない。
シーファはそんなサテラの様子を隣で見ながら、面白くて仕方がないといった表情を浮かべた。
「くすくす…。レグルスちゃんはしっかりなつくべき相手を見抜いているようですわね。お姉さまはやっぱり聖獣になつかれるのは無理なのですよ♪」
「…なんですって?」
「私を見ていてくださいませ♪」
シーファはそう言うと、その後ろ手に隠し持っていたあるものをレグルスの前に差し出した。
「あ、あんたそれ卑怯でしょ!!!」
「なにがですか?私はただこの子にご飯をあげたかっただけですよ?♪」
サテラは大きな声でシーファに対して抗議の声を上げるが、彼女はそれを全く聞き入れはしない。
シーファがその手に持っていたのは、机の上に置かれていたパーティー用の高価なお肉であった。
それを棒にさして食べやすい形にし、レグルスに向けて差し出したのだった。
「さぁ、おいしいお肉ですわよ?食べたくはございませんか?♪」
すると、それまで誰とも顔を合せなかったレグルスが初めてその顔を動かし、シーファの差し出したお肉の方に視線を向けた。
「(ほらほら、いくら聖獣と言えども、所詮はただの動物…。こうして餌付けをすればすぐになびいてくるのですわよ♪)」
その内心で勝利を確信した様子のシーファだったものの、刹那、それははかない幻と消え去った…。
「…っ???」
彼女がお肉を差し出した次の瞬間、そのお肉は見るに堪えないほど腐り上げ、とてつもない異臭を放ち始めた…。
「!?…な、なによこれ…!!!」
その異臭は当然、お肉を持っていたシーファの周りに絡みつき、彼女の鼻を突きあげる。
「さ、さいあく…!!げ、ゲホッゲホッ…」
…シーファはとてつもないにおいに翻弄され、その場から逃げるようにエリッサの前から姿を消していった…。
「ちょ、ちょっと!どこ行くのよ!」
そしてそれにつられ、サテラもまたシーファの後を追ってその場を後にしていった。
その場に残される形になったエリッサは、レグルスに対してこう声をかけた。
「も、もしかして私から二人の事を追っ払ってくれたの?」
するとレグルスは、普段と変わらぬにこっとした表情を浮かべることで、エリッサの言葉に答えた。
エリッサはそんなレグルスの事を愛おし気に抱きしめ、そのぬくもりを体に焼きつけつつ、こうつぶやいた。
「ありがとう、レグルス」
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