第21話

そしてそれから数日の時が過ぎ、ついにノーティス第二王子の名の下、王宮にてエリッサを招いて行われるパーティーが開かれる日を迎えた。


「(さて…。今日は国の重鎮たちだけで行うような堅苦しい食事会ではないし、服装は…ラフなもので構わないだろう。こだわった衣装をエリッサに見せたところで、どうせすぐに終わる関係に過ぎないのだから)」


自室で鏡に向き合うノーティスは、心の中でそう言葉をつぶやいていた。


コンコンコン

「ノーティス様、失礼します」


その時、扉の外からノックによって合図が行われ、1人の人物がノーティスの控える部屋の中に足を踏み入れた。


「シュルツか、ちょうどよかった。”例の食材”は手に入ったのか?」

「はい、完璧にそろえることが叶いました」

「よしよし♪」


ノーティスがシュルツに命じていた”例の食材”、それはこの王国において非常に価値の高い肉や果物が余すことなく揃えられた、まさに夢のようなメニューの事であった。


「もしかしたら、エリッサに対していらぬ仏心ほとけごころが働き、この私になつくことをためらうとも限らない。しかし聖獣といえど、所詮しょせんは動物よ。よだれがこぼれ落ちるほどの高級食材で釣ったならば、絶対に食いつくに決まっているというもの♪」

「さすがはノーティス様、素晴らしいお考えかと思います」

「ククク、俺に抜かりはないとも♪」


あくまでレグルスの事を第一に考えているノーティスは、どんな手を使ってでもその存在を我がものにしたい様子で、そこに変わりはなかった。


「ノーティス様、そろそろ皆様が到着されるお時間です」

「よし、わかった」


シュルツからかけられたその言葉を聞き、ノーティスは服の襟をぴしゃっとそろえると、不気味な笑みを浮かべながら歩みだし、自身の部屋から目的の場所を目指して進み始めた。


――――


王宮が誇る大きな広間の中には、ノーティスによって招かれた多くの者たちが姿を現していた。

王宮に仕える関係者から貴族家、資産家に至るまで、さまざまな分野における重鎮たちの顔が揃えられつつあった。


しかし、そんな場においてある意味不釣り合いともいえる人物が一人、その姿を現した。


「え、えっと…。この場所で合ってるよね…?」


他でもない、今回のパーティーが開かれるにあたって、否が応にもその中心人物となっているエリッサであった。


「(お、王宮には何度も来た事あるけど、いっつも外でほったらかしだったから、どこにどの部屋があるのか全然わからないや…)」


いろいろな感情が渦巻くからか、どこかそわそわしている様子のエリッサ。

そんな彼女の隣には、彼女とのお出かけを心待ちにしていたレグルスが並び立ち、今日を心の底から嬉しそうな雰囲気を放ちながら、その体を少し興奮させていた。


「お、おいおい…。なんであんな生き物がこの神聖な王宮に連れ込まれているんだ…?」

「さぁねぇ…。最近の若い女はああいう感じなんじゃないのか?非常識というかなんというか…」


エリッサの事もレグルスの事も知らない者たちは、こぞって二人の事をさげすんだ目で見つめた。

…その正体がかの聖獣であるなど、全く気付くそぶりも見せず…。


しかしそんな様子の二人のもとに、一人の男があいさつに訪れた。


「はじめまして、エリッサ様。ノーティス様の下で使っていただいている、シュルツと申します」

「は、はじめまして…」


エリッサの返事を聞いたシュルツは、そのままレグルスの方にへと視線を移す。


「なるほど…。君がレグルスか…」


シュルツぼそぼそと独り言をつぶやきながら、レグルスの体をゆっくりと見て回る。

レグルスはそんなシュルツに特に嫌悪感を示すこともなく、頭上に?マークを浮かべて大人しくお座りをしていた。


「…ふむふむ、レグルスは相当あなたになついているらしいですね。この子をそれほど惚れさせるとは、あなたは一体…?」

「え、えっと……」


真剣なまなざしを向けてくるシュルツに対し、どうしていいかわからなくなるエリッサ。

シュルツは容姿が端麗で、体型も細身でスタイルが良い。

年上でもるそんな彼に突然距離を詰められ、免疫のない彼女はどこか恥ずかしさを感じてしまった様子だ。


「ちょっと!!!何勝手にシュルツ様と話してるよの!!!」


その時、その場に現れた一人の人物により、二人の会話は遮られた。


「サ、サテラお姉様…」


二人の前に現れたサテラは、シュルツをエリッサの前から引きはがし、小さな声で彼に向けてこう言った。


「シュルツ様!エリッサと話をすることなんてなにもないでしょう??シュルツ様が調べるべきはレグルスの方なのですから!エリッサに何か話があるときは、この私が聞きますから!」


…意地でもエリッサにだけは先を越されたくない様子のサテラは、それはそれは誰の目にもわかるほど必死な表情を浮かべていた。

そしてそんな彼女に続き、かつてエリッサとともに生活をしていた、家族とも呼ぶべき面々がその姿を現した。

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