第20話
ノーティス第二王子が招待し、4人が招き入れられた食事会は、これまでにない独特な雰囲気に包まれながら行われていた。
「皆よく来てくれたな。これまでにもこうして王宮で食事会をすることは何度もあったが、今日は前祝いだ。遠慮なく心ゆくまで楽しんで帰ってくれ♪」
イスに座り、料理が盛り付けられたお皿を前にして、ノーティスは上機嫌にそう言葉を発した。
そんなノーティスに対して先陣を切り、カサルがその口を開いた。
「前祝いといいますと、エリッサとの婚約のことですか?」
「そうだとも。実にめでたいだろう?第二王子であるこの私の婚約相手が決まったのだ。国を挙げて祝いをしなければ!」
カサルから話は聞いていたほかの3人だったが、こうしてノーティス本人からそのことを告げられたことで、それがまぎれもない事実であることを確認する。
「まぁ!それじゃあエリッサとノーティス様が結ばれたら、私とノーティス様は義理の親子ということになりますのね!なんと素晴らしい事かしら!」
うれしそうにそう言葉を発するユリアだったものの、それを聞いたノーティスはその表情をやや少しだけ引きつらせた。
「(けっ…。それも短い時間だけの話だ…。誰が好き好んであんな女との婚約などするものか…)」
すると今度は、婚約者エリッサの姉であるシーファがその口を開いた。
「ノーティス様、お姉様はなにやら新しいお友達ができたそうですけれど、その子の事はどうされるのですか?」
そう疑問の声を上げられたノーティスは、今度はうれしそうな表情を浮かべながらこう答えた。
「エリッサの大事な友人であるというならもちろん、私も大切な家族の一員として迎え入れるに決まっているさ!いやむしろ、彼女よりもこの私のほうになついてしまうかもしれないなぁ。乗り換えられる形になったエリッサは悲しむかもしれないが、まぁそれも仕方がないというもの。より魅力的な人間を選ぶのが、聖獣なのだからなぁ(笑)」
「まぁ、私も全く同じ思いですわ!お姉様には申し訳ないですけれど、王子様を前にしたらどんな聖獣だってその気持ちを変えてしまうに決まっていますもの。…そうなった時、お姉様はそれが受け入れられなくて泣き出してしまうかもしれませんが…(笑)」
明るい声でそう答えるシーファを、隣に座るサテラがどこかいぶかしげな表情を浮かべながら見つめる。
「(そうやってノーティス様にすり寄って、エリッサの後釜を狙っているつもりなのでしょう?その媚びるようなしゃべり方といい、口調といい、本当に気持ち悪いわね…)」
サテラが自身の心の中でそうつぶやいたその時、1人の男がこの食事会場の場に姿を現した。
「失礼します。ノーティス様、例の予定に関する詳細な事項が決まりましたので、こちらにお持ちいたしました」
「あぁ、シュルツ。よしよし、その辺に適当に置いておいてくれ」
「承知しました。それでは、私はこれで」
手早く用事を済ませたシュルツは、特に表情を変えることもなくそのまま簡単に挨拶を行った後、5人の前から姿を消していった。
そして、そんな彼の事を熱いまなざしで見つめる人物が一人、いた。
「ちょ、ちょっと失礼します!!」
サテラは若干上ずった声でそう言葉を発すると、扉から去っていったシュルツの後を追い、足早に駆け出していく。
その背中を見たシーファは、その心の中にこう思っていた。
「(お姉様、そんな必死になられて…。見ているこっちが恥ずかしいですわ…。聖獣に博識なシュルツ様との関係を固めて、先に聖獣を自分たちになつかせてしまって、いずれは私やノーティス様の事までも下に見ようとされているのでしょう?…ほんと、性格が悪くって気持ちが悪いわ…)」
…自分の事は棚に上げ、一方的にサテラに対する嫌悪感を心の中につぶやくシーファ。
その分析が当たっているかどうかは別にして、やはり二人の間にある溝は非常に深く、大きなものである様子だった…。
――――
「シュルツ様!!」
「…あなたは?」
「私、エリッサの姉の、サテラ・レクトと言います!」
「あぁ…あなたが」
実は今日、サテラはシュルツの事を誘惑しようと、非常に派手なドレスを身にまとってきていた。
自信の体のラインを見せつけるかのような振る舞いを見せ、シュルツの心を掴もうとする彼女だったが、シュルツの方は全く自身の表情を変えず、無愛想な様子でサテラに言葉を返した。
「なにか御用ですか?」
「え、えっと……」
なかなか言葉にするのは難しいことではあるものの、これを言わなければ今日ここまで来た意味がない。
彼女は意を決し、シュルツに対してある質問をぶつけた。
「あの…。シュルツ様には、将来を誓い合ったお相手様はもうすでにいらっしゃるのでしょうか??」
若干に頬を染め、上目遣いでそう言葉を発したサテラ。
普通の男ならば間違いなく心に刺さる姿であったものの、シュルツは相変わらず表情を変えることなく、落ち着いた口調でこう言葉を返した。
「将来、ね…。いませんよ、私には誰も」
「(…!!!!)」
「申し訳ないですが、この後仕事がございますので…」
シュルツはサテラにそうとだけ告げると、そそくさとその場を後にしていった。
一人残される形になったサテラは、その心の中にこうつぶやいた。
「(…相手がいないのなら、これはもう運命が私に微笑んでいるとしか思えないわね…!!)」
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