第19話

ノーティスとの話を終え、その日の仕事も終えて自宅に戻ったカサルは、そのまま家族3人を自分の部屋まで呼び出し、今日あったことをそのまま伝えることとした。

…当然、3人がカサルに返したリアクションは穏やかなものではなく…


「は、はぁっ!?あのエリッサがノーティス様と婚約するですって!?」


最初に叫び声を上げたのは、エリッサの母親であるユリアだった。


「し、しかもエリッサには”絶大な力を宿す聖獣”がなついていて、ずっとエリッサの味方をしている、と…」


比較的穏やかな口調で、しかし驚きの声を隠せないのは、エリッサの姉であるシーファ。


「あぁもうイライラする!!!なんで私たちがこんな思いをしなきゃいけないのよ!!!」


怒りの感情を隠す様子もなく、言葉を荒々しくするサテラ。

カサルが予想していた通り、3人からの反応はそれはそれは非常に反感的なものであった。


「あ、あなた、どうされるおつもりなのですか??まさか本当にエリッサとノーティス様との婚約を受け入れるおつもりなのですか??そ、そんなものが実現してしまったら、これまでエリッサの事を虐げ続けてきた私たちが周囲からどんな目で見られるか分かりませんよ…??」


ややヒステリック気味な雰囲気を放ちながら、ユリアがカサルに対してそう言葉を放つ。

そんなユリアをなだめるように、落ち着いた口調でカサルは言葉を返した。


「エリッサの事をノーティス様が毛嫌いし続けていたのはみんなも知っているだろう?だかこれは、きっとノーティス様のただの気まぐれにすぎない…。な、何も心配などいらないさ…」


あくまで穏便に話を済ませようとするカサルだったものの、そんな彼に対してシーファが鋭い口調でこう言った。


「…ノーティス様はお姉様の聖獣が目当て、なのですよね?聖獣がお姉様に一番になついたのなら、そんなお姉様と夫婦になったならきっと自分の方にもなつくはず…。そして自分の方になついたのを確認した段階で、お姉様の事をポイっと捨てる。ノーティス様の狙いはそんなところでしょうか?」

「っ!?」


自分が抱いている予想を完全に言い当てられ、カサルはやや驚きの表情を見せる。

そしてそんなシーファの言葉を聞いて、ユリアとサテラが各々の言葉を放った。


「そ、そうなのあなた??」

「な、なんだ、そういうことか…。それならまぁまだ納得が…」


ノーティスが本気でエリッサの事を愛しているわけではないという話を聞き、二人はその心を少し落ち着かせる。

それによって場の雰囲気は一旦落ち着き、全員が現状に納得したような表情を浮かべる。

…しかしそれぞれが心の中に抱く思いは、全く違うものになっていた。


「(そう、これは偽りの婚約にすぎない…。この婚約と、その後の婚約破棄によって聖獣がノーティス様のものとなり、エリッサとの関係が破棄されたなら、その後にノーティス様の隣に立つものとして選ばれるのはこの私に決まっている…。私は、私と聖獣とノーティス様の3人で、満ちたりた幸せな日々を送ることになるのよ。そこに他の誰もいらないわ♪)」


ノーティスと結ばれることをあきらめていない様子のシーファは、心の中でそう思っていた。


「(それじゃあ、最近シュルツ様が忙しそうにしていたのは聖獣の事だったってことかしら…。もしかしたら、将来的に聖獣を手にすることになるのはノーティス様でなくって、聖獣の事を研究しているシュルツ様の方なんじゃ…?それならやっぱり、私はノーティス様よりもシュルツ様の方と結ばれたいわ…!シーファ、相変わらずあなたはノーティス様の事を狙っているのでしょうけど、本当に将来の事を想うのならシュルツ様と結ばれる方が正しいのよ?後から絶対に後悔することになるわ♪)」


以前より、ノーティスからシュルツに心を乗り換えていたサテラは、自身の中でそう未来を思い描いていた。


狙いとしている相手こそ違っている二人であるものの、その根底に思っていることは互いに似通っていた。


「(聖獣だって、人間の性格をばっちりとみているはず。粗暴で陰湿なお姉様には絶対になつかないでしょうね。あぁかわいそう♪)」

「(少なくともシーファの方が私よりも聖獣に好かれることは絶対にないわ。だって性格の違いを見れば、どっちが魅力的なのかなんて誰の目にも明らかだもの。あなたのような何を考えているかわからないような女に、かわいいかわいい聖獣がついてくるわけがない)」


互いに見下しあう二人に対し、カサルは最初の話題に戻し、説明を再開した。


「まぁノーティス様の思惑はともかく、婚約内定の前祝いの食事会を俺たちだけで開くこととなった。そこにエリッサは呼ばないらしいから、まぁともかく楽しみに行こうじゃないか」


カサルの言葉を聞き、3人はその表情をそれまで以上に明るくして見せた。

…それぞれが心の中に抱く思いは、全く正反対であるにもかかわらず…。

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