第18話
シュルツから衝撃的な言葉を告げられたカサルは、その内容を頭の中で整理するだけで精いっぱいだった…。
「(ま、間違いない…。ノーティスは自分自身がエリッサの家族になることで、レグルスの事を手に入れようとしている…。くっそ、これじゃ俺の強みが完全に封殺されてしまう…!)」
第二王子であるノーティスに自分が負けていない点、それは自分がエリッサと肉親であるという点にある。
その事をレグルスを手に入れるうえでの心のよりどころにしていたカサルは、それが早速封じられてしまったことに強く焦りの感情を抱いていた。
「(こ、このままではまずい…。我が娘が第二王子と結ばれること自体は本来心から喜ばしいことなのだが、あのノーティスの事だ…。どうせレグルスの事を手に入れたなら、すぐにエリッサなど追い出してしまうつもりなのだろう…。そしてこの俺の事も、エリッサとともにお払い箱にしてくる可能性が高い…)」
最近の自分に対するノーティスの態度に思うところがあったカサルは、ノーティスを信じることは到底できなくなってしまっていた。
「(シュルツめ…。あいつが現れてから俺の立場がない…。本当ならば今頃、心を躍らせているのは俺の方であるはずなのに…!)」
シュルツへの一方的な憎しみに心を高ぶらせていた、その時だった。
「こちらにいらっしゃいましたか、カサル様。お部屋にてノーティス様がお呼びですよ?」
「…??」
廊下を歩いていたカサルに、王宮使用人がそう言葉を告げに来た。
…ノーティスからすでに愛想を尽かされているに違いないと考えていたカサルにとって、その言葉は意外なものだった。
「(こ、この期に及んで何の話だ…)」
しかし、呼び出された以上は行かないわけにはいかない。
カサルは使用人に案内されるままに、ノーティスの控える部屋の前まで足を進めていき、挨拶を行った後に扉を開け、部屋の中へと足を踏み入れた。
――――
「おぉ、よく来たなカサル。まぁ座れ」
「ノ、ノーティス様…」
自分が想像していたよりもご機嫌な様子のノーティスを見て、カサルはやや面食らってしまう。
…カサルは恐る恐る、それでいて単刀直入に、先ほどシュルツからかけられた言葉の真偽を確認しようと試みた。
「…ノーティス様、ある話を耳にしたのですが…。我が娘であるエリッサに、婚約を申し込まれようとされているとか…?」
探り探りな口調でそう言葉を発するカサルに対し、ノーティスは機嫌のよさを隠さない明るい口調で言葉を返した。
「なんだ、もう聞いていたのか。その通り、私はお前の娘であるエリッサと婚約を結ぶことに決めた♪」
「り、理由を聞かせていただいても…?」
「理由?そんなもの聞くだけ
「……」
得意げにそう言葉を重ねるノーティスの事を、いぶかし気な視線で見つめるカサル…。
「(なにが惹かれあってるだ…。最初からレグルスの力を手に入れる事しか考えていないくせに…。どこまでも薄汚いやり方を…)」
…そのことに関してはカサルも同じであろうと突っ込みたくなるものの、彼の中に客観性という言葉は存在していなかった様子。
「エリッサは受け入れたのですか?ノーティス様との婚約を…」
「おかしなことを言うなぁ…。第二王子であるこの私からの直接の申し出なのだぞ?受け入れるに決まっているだろう?」
「……」
それについて、カサルは肯定も否定もできなかった。
というのも彼自身、これまでエリッサの気持ちに向き合ったことなど一度もなかったため、エリッサがどんな事を想い、どんなことを考えているのかを、父親でありながら全く知らなかったのだ。
「(い、今までのいきさつを考えればエリッサがノーティスとの婚約を受け入れるとは思えないが…。しかしエリッサとて年頃の女、王子様から誘いを受け、妃となることを望まれたなら、その心を揺るがさないとも限らない…のか…?)」
エリッサの心を読み取りにかかるカサルだったものの、彼にエリッサの思いが想像できるはずもない。
そしてそんなカサルに向け、ノーティスは一枚の紙を差し出した。
「さて、今日お前を呼んだのはほかでもない、これにサインをしてもらうためだ」
「こ、これは…」
その紙はまぎれもない、エリッサとノーティスの婚約を証明するものだった。
そこにはすでにノーティスの名が書かれており、残るスペースにはエリッサの名、そしてカサルの名を書き入れる欄がある。
「まぁ、婚約の証人というやつだな。お前はエリッサの父なのだから、任せても何の問題もあるまい?」
「は、はい…」
「じゃあ決まりだ。早くそこにサインしてくれ」
「…」
第二王子から直々に頼まれて、断ることなどできるはずもない。
カサルはノーティスに言われるがままに、その婚約証書にサインを行った。
「よしよし、これで後はエリッサのサインだけだな♪」
カサルのサインを確認したノーティスは、婚約証書を見てその機嫌をさらに一段と良くした。
「カサル、喜ぶといい。これで私とお前は主人と従者の関係を超え、家族となったというわけだ♪」
「あ、ありがとうございます…」
状況だけ見れば、カサルにとっては間違いなく喜ぶべきことではある。
…しかし彼の心の中には、喜びよりも不気味さからくる不安感の方が大きかった。
「それじゃあ前祝いと行くか。カサル、せっかくだしお前の家族を王宮に呼ぶといい。再び食事会を開こうじゃないか」
「わ、わかりました…」
ノーティスのその提案に妙な胸騒ぎを感じるカサルだったものの、彼は素直にノーティスに従い、家族3人を食事会の場に案内することとしたのだった…。
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