第17話

「ノーティス様、お呼びでございますか?」

「あぁ、よく来たなシュルツ。まぁ座れ」


シュルツを自身の部屋に呼びだしたノーティス第二王子。

その理由は、今度行われることが決まった食事会に関することだった。


「お前が組んでくれた計画、見させてもらった。やはりお前に任せてよかったよ、なかなか面白い」

「恐れ入ります」


ノーティスは自身に忠実なシュルツの事をやたら気に入っており、レグルスを我がものとする今回の作戦もまた、細かい部分はシュルツに一任していた。

…本来ならそれは、レグルスの発見に寄与し、レグルスと近しい関係にあるエリッサの肉親であるカサルが任されるべきなのであろうが、それが避けられるだけの妙な確執かくしつが二人にはあった…。


「それで、例の聖獣についてなにか新しいことは分かったのか?」


ノーティスの発した言葉に、シュルツは普段と変わらぬ冷静な口調で言葉を返す。


「はい。おそらくかの聖獣の名は”レグルス”だと思われます。主人の願ったものを何でも生み出せる力を有しているとされ、その影響力は絶対的。だからこそ今まで、静かに眠り続けていたのでしょう」

「それが今になって目を覚ました…。その理由はもちろん、この私の王としての魅力に惹かれたからだな?」


ノーティスの自信あふれるその言葉に、シュルツは自身の首を縦にこくりと振って答えた。


「今は彼女の事しか知らないから彼女になついているのでしょうが、きっとほかの人間を見たならその思いを改めることでしょう。ましてやそれがノーティス様ともなれば…」

「ククク、やはりそうだよな…♪」


少し体を振るわせ、かなり上機嫌な様子を隠しきれないノーティス。

しかしそれも無理のない話。

なんでも願いを叶えてくれる聖獣を前に、心が躍らない人間などいるはずがないのだから。


…しかしこの場に一人、レグルスに対しては全く心を躍らせていない人間が一人、いた。


「(…ノーティス様はレグルスの方にしか興味がないようですが、私はむしろエリッサ様の方に興味がありますね…。かの聖獣がなついたのならば、もしかしたら彼女には我々も知りえないとてつもない何らかの秘密の力が…?)」


誰もがレグルスの方に興味をそそられていた中で、シュルツだけは全く反対の思いを抱いていた。

彼はレグルスの方にはあまり興味を抱いておらず、レグルスに好かれたエリッサの方に大きな興味を抱いていた。


「(…エリッサ様、食事会の場でお会いできるのが楽しみですね…。一体どんな方なのでしょう…)」


…彼はエリッサの事を女として見ているのか?それともなにかの研究対象のような目で見ているのか?それは彼以外の誰にもわからない事である…。


――――


そしてノーティスにたがわず、同じくレグルスに興味津々な男がここにも一人…。


「…レグルス、その力は必ずこの俺のものにしてやる…!」


カサルは王宮にて自分の仕事をこなしながら、その脳内ではレグルスを我がものとする算段を立てることに必死になっていた。


「(エ、エリッサになついたのなら、それはおそらくあの女にではなく、あの女に流れる血になついたとみるべきだ…。だというのなら、レグルスはきっとこの俺にもなつくはず…。そうなればノーティスをどかしてこの俺が王になることだって夢じゃなくなり、それどころか俺はこの世界で手に入らないものなど何もなくなる…!)」


エリッサになついたのなら、彼女の実の父である自分にもなつくはず。

いくら時の第二王子が相手であろうとも、その点だけは自分は向こうに負けていない点である。

彼の算段はそこにあった。


「(…大丈夫だ、きっとレグルスはこの俺の方を選んでくれるに違いない…。大丈夫だ…)」


まるで自分自身にそう言い聞かせるかのように、小さな声でそう言葉をつぶやくカサル。

その時、廊下を歩く彼の前に一人の男が姿を現した。


「お久しぶりですね、カサル様」

「カサル……」


丁寧なあいさつを行ったシュルツに対して、カサルはかなりそっけない態度で返事をした。

シュルツの顔を見て機嫌を損ねたのか、そのままその場から通り過ぎようとするカサルに対し、シュルツは去りざまにこう言葉を発した。


「ノーティス様、これからエリッサ様に婚約の申し出を行うそうですよ」

「なっ!?!?」

「…当然、まだ返事をいただいてはおりませんが、おそらく実現することは間違いないでしょう。それでは」


シュルツはそう言い放つと、カサルの反応を見ることなくそのままその場を後にしていった。

…一人残されたカサルはその心を動揺させ、後を追うこともかなわない。


「(…な、なん…だと…)」


エリッサに対して婚約関係を申し込む。

ノーティスのその行動が何を意味するのか、カサルは瞬時に理解した。


「(じ、自分もエリッサの家族になろうというのか…!?レ、レグルスを手に入れるために…!?)」


ノーティスがエリッサの事を愛してなどいないであろうことくらい、カサルならずとも誰の目にも明らかなことである。

それゆえにノーティスがどんな狙いを持っているのか、想像するにこれほど簡単なことはなかった…。


「(…お、思い通りになどさせてたまるか…。もしもその婚約を許し、レグルスがノーティスになついてしまったなら、それこそ俺の夢は砕け散っしまう…。ぜ、絶対に阻止しなければ…!!)」


…レグルスを我が物とするべく、あの手この手を繰り出そうとする二人。しかしカサルにしてもノーティスにしても、そもそも自分にレグルスがなつかないかもしれないという考えは、微塵みじんも存在しないのだった…。

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