第11話

「…あ、あれ?確かこのあたりに荒れ果てた土地があったはずだが…」


調査するべき目的の場所を訪れたカサルは、改めて自身が携帯する地図を確認し、目の前に広がる景色と見比べる。


「…お、おかしいな…。地図では確かにここのはずなんだが…」


ノーティス第二王子から、聖獣が眠る場所とされている土地を調査するよう言われていたカサルは、その命令通りにその場所にやってきた。

事前に伝えられていたのは、このあたり一帯は足を踏み入れることさえ困難なほどに荒れ果て、草木が生い茂り、まさに危険地帯そのものだという事だった。

…しかし、今彼の目の前に広がる光景は、美しい草原が一様に広がり、その中心に可愛らしい一軒の家が建つのみの場所だった。


「…この地図が間違っているんだろうか…?まさかノーティス様が嘘を言うはずはないし…」


聞いていた話と全く違っている状況を前に、カサルはどうしたものかと自身の頭を抱える。

知らされていたことと実態が異なっていたのなら、本来ならそのことを伝えに戻るべきなのだろうが、なかなかそうもいかない理由がカサルにはあった。


「…あれだけ自信満々に、「お任せください!」と言ってしまった後だ…。このままなんの手掛かりも得られなかったですなどと言ったら、それこそどれほど機嫌を損ねられるか…」


…自分が言ったことでありながら、カサルは今になってそのことを後悔し始めている様子…。


「…ったく、エリッサがいなくなってようやく俺の時代が来るものと思ってたのに、まだあいつの呪いは続いているらしいな…。どこまで俺の足を引っ張ってくれれば気が済むのか…」


そして相変わらず、うまく行かない理由はすべてエリッサに押し付けるカサル。

その性格はエリッサがいなくなった今なお、治るはずはなかった。


しかし、事態が一転したのはその時だった…。


「(!?あ、あれはエリッサじゃないか…!?)」


美しい草原の中に存在する一軒の家。

その中から一人の女の子が出てきたかと思えば、その人物は他でもない、自分の実の娘であるエリッサ張本人であった。

カサルは突然の出来事を前に心を動揺させたものの、すさまじい反射神経を見せて近くの木の裏側に隠れ、エリッサから見えない位置に陣取った。


「(ど、どういうことだ…?なんであいつがこんなところにいるんだ…?)」


カサルはその頭の中で、起こりうるすべての可能性を考え抜く。


「(い、家出した後にここに住む誰かに拾われたと考えるのが自然だが、そんな相手があいつにいたか?誰からも忌み嫌われていたあいつの事をかくまおうなどと考える人間など、この世にいるはずがない…。しかもあいつはノーティス様からも名指しで嫌われていたんだぞ…?そんなあいつをかまったりすれば、それこそ王宮に弓を引くも同じ行為だ…。リスクを背負ってまでそんなことをする奴がいるはずが…)」


必死に状況を分析するカサルの視線の先には、エリッサだけでなくなにやらもう一つの存在が見て取れた。


「(…あいつ、ここで動物でも飼っているのか?ずいぶんと良いご身分だな…。あんな女に飼われるなんて、さぞ前世で悪いことをしたんだろうなぁ…。俺の所に来ればまだましな生活を送れるだろうに…)」


カサルが遠目にレグルスの事を馬鹿にした、その時だった。

何もなかった場所に突然、子ども用の遊具のようなものが姿を現した。


「(っ!?!?な、なんだ今の!?!?)」


これにはさすがのカサルも驚きを隠せない。

そして信じがたい現象はそれにとどまらず、何度も何度も継続して起こった…。


「(つ、次から次に妙なものが生み出されて…!?い、一体何が起こって…!?)」


その時、ある一つの可能性がカサルの脳裏に浮かび上がった。


「(…この場所は間違いなく、ついこの間まで誰も足を踏み入れられないような場所ったはず…。それがいきなりこんな別世界のような光景になっていて、さらにそこにエリッサが暮らしている…。おまけに、あいつの隣にはあいつになついているらしい妙な生き物がいて、信じがたい現象を繰り返し引き起こしている…。これはまさか…)」


…心の中であることを確信した様子のカサルは、エリッサに気づかれないようにそのままゆっくりと体を引くと、来た道を戻って退散し始める。

彼はその心の中で、こうつぶやいていた。


「(…エリッサのやつめ、ようやく役に立ってくれたな。やつが聖獣かその仲間だというのなら、探す手間が省けたというもの。すぐにこのことをノーティス様に報告し、聖獣をノーティス様の方になつかせれば、瞬く間に俺の時代が始まることだろう…!)」


カサルは勝利を確信し、自信満々にノーティスの元を目指して駆けだしていった。

…そんな欲望に満ちた心の持ち主がが、レグルスに好かれるはずなどないということを知る由もなく…。

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