第10話

「レグルスの力…。ま、まさかここまですごいなんて…」


自分の目の前に広がる光景が信じられず、エリッサは思わずそう言葉を漏らした。

彼女が見つめる視線の先には、つい先ほどまでは確かに荒れ果てた大地が一面に人がっていた。

だというのに今は、立派で可愛らしい大きな建物が立ち、そのあたり一帯はきれいな草原が一面に広がっている。

時刻は夜であるため、昼間ほどには視界は開けてはいないものの、それでもわかるほど美しい景色が彼女の目の前に突如として現れたのだった。


「(…レ、レグルスと一緒にどこかでまったり暮らしたいって願っただけなのに、一瞬のうちにこんな立派な建物が…)」


呆然とするエリッサに対し、レグルスは自身の頭を彼女の前に差し出す。

その表情は、自分の事をほめてくれと言わんばかりのものだった。

エリッサはいまだ心の中に驚きを抱きながらも、レグルスの頭をなでながら、彼にこう言葉を伝えた。


「わ、私の願いをかなえてくれるのはうれしいけれど、無理しちゃだめだよ??でも、ありがとうレグルス♪」

「♪♪♪」


頭をなでられたレグルスは心地よさそうに目を細め、うれしそうに体を震わせる。

そんなレグルスの反応を見とどけると、エリッサは彼に対してこう言った。


「それじゃあ、レグルスが作ってくれたお屋敷、入ってみよっか?」


レグルスはうれしそうにその言葉に反応すると、即座に彼女の横隣に陣取った。

エリッサはレグルスを横に伴うと、彼が生み出した家の中に足を踏み入れていく。


「…す、すごい…」


入るや否や、エリッサは早速感嘆の言葉を口にした。

外見は非常に可愛らしい作りでありながら、その中は一流貴族のお屋敷も顔負けなレベルで美しい内装が整えられており、生み出したレグルスのこだわりの強さが感じられる。


「ま、まるで絵本の中に出てくるお城みたい…。わ、わたしなんかにはとてももったいないよ…」


いくつもの綺麗な部屋が作られており、およそ数十人は暮らすことができるであろう空間がそこにはあった。

さらに広々とした空間だけでなく、新品の家具や鏡、マットからガラスに至るまで、目を見張るほど美しいものがそろえられていた。

その光景を目にしたエリッサはそれまで以上に驚きの表情を浮かべると、隣でうれしそうにそわそわしているレグルスの事を見つめ、心の中でこうつぶやいた。


「(や、やっぱりこの子、本物の聖獣なんだ…。正直さっきまでは半信半疑だったけど、こんなすごい力を見せつけられちゃったら…)」


聖獣の存在は広く知られているとはいっても、所詮しょせんは幻の扱いでしかない。

ましてやそれが現実に存在し、さらにこうして自分の目の前に現れることとなるなど、信じられなくとも仕方のない話だった。


「(…で、でもどうしよう…。こんなすごい力を私が独り占めなんて、絶対に良くないよね…)」


レグルス自身はエリッサの事をもうすでにかなり気に入っている様子であるが、その思いを一人で独占してもいいものかどうかと、エリッサはその頭を悩ませていた。

その時、彼女の頭にあるひとつのアイディアが思い浮かんだ。


「(…そうだ!王宮で飼い殺しにされちゃってるあの子たちを、ここで引き取ることはできないかな…!)」


それは子どもたちを愛するエリッサならではの発想だった。

王宮で過ごす子どもたちは、表面上では何一つ不自由のない生活を送っていることになっているものの、その現実は非情に悲惨なものだった。

没落した貴族家の生まれであることを利用され、その体に流れる血を使って一儲けしようとしているノーティス第二王子の道具にされているのが現実であり、賢い子供たちはそのことをよく理解していた。


「(…私が子供たちを引き取ると言ったら、絶対に対抗してくるよね…。それはつまり、ノーティス様と真っ向から争うことになりかねない…)」


今までエリッサに、誰かと真っ向から争いをした経験など一度もなかった。

それも相手が王宮の王座に座る第二王子ともなれば、相手をするのに相当な覚悟が必要になる。

普通の人間なら、絶対に躊躇ちゅうちょし、ためらうことだろう。

…しかし、今のエリッサはこれまでとは雰囲気が少し違った。


「(…なんだろう、一度は捨てた身だし、なるようになっちゃえっていう思いになってる…。それに、子どもたちを助けたいっていうのはずっとずっと思ってきたこと、今になってそれが実現できるのなら、やらない理由なんてない…!)」


エリッサは心の中でそう言葉を発すると、改めて自分の横に陣取るレグルスの方へと視線を移す。

彼は瞬時にエリッサの心を読み取ったのか、エリッサと同じく、彼もまたどこか意を決したような表情を浮かべていた。


「…レグルス、私と一緒に戦ってくれる…?」


レグルスはエリッサの言葉に対し、強い自信をもってその首を縦に振ってこたえて見せたのだった。

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