第9話

エリッサが聖獣レグルスとの運命的な出会いを果たしていたその一方、カサルはノーティス第二王子の元を訪れると、エリッサが失踪したことについて楽しげな様子で話をしていた。


「ついにやりましたよノーティス様、あの忌々いまいましい存在であるエリッサがようやく自分の使命を理解し、我々の前から消え去ってくれました。いやいや、こうなることをどれだけ待ち望んだことか…」


カサルはノーティスを前にして、心の底から嬉しそうな表情でそう言った。


「ククク、いなくなってくれたのならなによりだな。…しかしまぁ、ずいぶんと時間をかけてくれたな…。あれだけ周りから嫌われ続けていたのだから、本当ならもっと早く周りのためを思っていなくなってくれるのが一番だろうに…」


ノーティスはやや不満そうな表情を浮かべながら、カサルに対してそう言葉を漏らした。


「まったくでございます…。相手の気持ちを理解できる普通の人間なら、きっともっとはやく自分から身を引くのでしょうに…。それさえできないとは、やはり最初から生まれてくるべきではなかった存在であると言わざるを得ませんね…。ノーティス様にもこれまで多大なる迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」


カサルはそう言うと、少し自信の頭を下げ、謝罪の意を伝えた。

それを見たノーティスはやや機嫌を戻し、カサルにこう言葉を返した。


「まぁまぁ、めでたい場であることに変わりはないのだ。お前もこれを機に気持ちを切り替え、これまで以上に私に尽くしてくれればいい。お前の家族もそれを望んでいるのだろう?」

「もちろんです!私の身はノーティス様あってこそなのですから!エリッサという足かせがなくなった今、ノーティス様に対する私の心を妨害するものはなにもないのです!」


エリッサがいなくなったことがそれほどまでにうれしいのか、カサルは過剰なほどノーティスに対して忠誠の言葉を伝える。

それを聞いたノーティスは機嫌を良くし、カサルに対してあることを伝えた。


「…それでは、我々の絆が一段と深くなったことを記念し、お前に最初の命令を下したい」

「はい!なんでもどうぞ!」


大きな声で誠意を見せるカサルに、ノーティスは自身の言葉を続ける。


「ここから西側に行った場所に、足を踏み入れる余裕もない危険地帯があるのを知っているな?」

「はい。…確か、一度その中に入ってしまったら、見たこともないような怪物に襲われ、二度とは出てこられないという噂のある場所ですね…?」

「ああ。しかしそのうわさ、実はこうなることを見込んでこの私が流したでっちあげなのだよ」

「ど、どういうことですか??」


得意げにそう語るノーティスは、カサルに対して詳しい説明を始めた。


「…聖獣の存在を知っているな?我が王宮に伝わる秘伝書にも、その存在はかつて確かにあったと記されている。一度なついた人間の望みを次々に叶えてくれる、人間にとって夢のような存在であるとな」

「そ、そうだったのですか…。そ、それで?」

「実は、王宮に伝わる秘伝書には上巻と下巻があり、これまで下巻の方は長きに渡って発見されておらず、その存在はもはや幻とさえ言われていた。…それがついこの間、幻だと言われていた下巻が発見されたのだよ…!」

「な、なんと!!(これもエリッサの呪いから解き放たれたおかげだな!)」


驚きを隠せない様子のカサルに、ノーティスは説明を続ける。


「そこにはこう書かれていたんだ。今でいうあの危険地帯、あそこにかつて、王宮に大きな力をもたらした聖獣を封印した、と…」

「そ、そんなことが…!?」

「私はそれを知り、すぐにあの地に関する嘘の噂を流した。立ち入ったものは次々に怪物に殺され、二度とは出てこられなくなる場所だとな」

「さすがはノーティス様!いついかなる時も次の手次の手を考えておられるのですね!」


カサルの持ち上げにノーティスは一段と気をよくし、その表情を上機嫌で染める。


「はっはっは。だからこそその地の調査を、お前に任せたいのだ。おそらくあの場所には聖獣が眠っており、目覚めの時を今か今かと待っているはず。お前が聖獣を調査して目覚めさせ、私になつかせることができれば、もうこの世界で我々に手に入らないものはなくなるぞ!どうだ、やってくれるな!」

「はい!もちろんでございます!」


ノーティスの言葉に対し、カサルは自身の頭を大げさなくらいに下げ、自身の気持ちの高ぶり様を表現した。


「(ほら見たことか!エリッサがいなくなった途端に、俺の人生は完全にいい方向に進み始めている!やっぱりあいつは俺たちにとって不吉な存在であることに違いはなかったのだ!)」


そしてカサルは顔を上げ、改めてノーティスと向き合うと、彼に対してこう言葉を告げた。


「エリッサがいなくなり、代わりに聖獣が我々のもとに来てくれるというのなら、これはもう神が我々に施しを与えてくれているとしか思えませんね(笑)」

「あぁ、その通りだ。これまで長きに渡ってエリッサという十字架を背負い続けてきた我々への、ご褒美なのかもしれないな(笑)」


…二人はすっかり聖獣が自分たちの者になることを確信している様子だった。

その聖獣が自分たちでなく、エリッサにしかなつかないことを知った時、果たして彼らはどのような表情を見せてくれるのだろうか…?

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