第8話

「…?」

「♪♪」


自分の体を可愛らしく私の体にこすりつけてくるレグルス。

私はそんな彼の頭をそっと撫でてみると、途端に気持ちよさそうに目を細め、その表情を一段と柔らかいものにした。

私はそんなレグルスの体を抱きしめると、こう言葉を漏らした。


「…レグルス、ごめんね。なにかおいしい食べ物でもあげたいけど、何にも持ってなくって…」


私自身もすごくお腹がすいているけれど、今は自分の事よりもこの子の事の方が心配だった。

ずっとずっとこんな場所にいたのなら、きっと満足に食事なんてできていないはず。

これだけ私になついてくれているのに、なんのお返しもできない私自身が、本当に悲しく感じられた…。


その時だった。

それまで私の近くに体を寄せていたレグルスが突然、私から数歩ほど距離を開けた位置に移動し、なにやらそわそわとした動きを始めた。


「(な、なになに…!?)」


私がそう思ったのも束の間、次の瞬間レグルスの前に不思議な物体が生み出された。

それは周囲が暗い中でもわかるほどにキラキラと輝くもので、例えるなら大きなガラスのようなものだった。

生み出されたもののきれいさに目を奪われていた私だったものの、次に目にした光景に度肝を抜かれる…。


バリイイイィィィィィン!!!!!!!

「っ!?!?!?!?」


なんと、自らが生み出した物体にレグルスは頭突きを行い、盛大に粉砕してしまった…。

私はその一連の流れにあっけにとられ、完全に全身が硬直してしまう…。


「(え、えっと…。い、今のは一体…??)」


…すると、レグルスが私に対して自身の首を振り、砕けた破片の残骸の方を示した。

私はレグルスに誘導されるままに、破片の残骸の方へと視線を移した。

…するとそこには、信じられないものが存在していた…。


「く、果物にパンに、お肉にクッキーまで…。い、一体どこから…?」


そこには大きなバスケットがあり、中にはいろいろなおいしそうな食べ物がきれいに並べられていた。

…目の前の光景を不思議に思った私は、何の気なしにレグルスの方に視線を移した。

するとレグルスは、まるで人間のようなどや顔を浮かべて、自身の胸を堂々と張っていた。


「こ、これ全部レグルスが生み出したの??」


私の言葉に、レグルスはニコニコとした表情を浮かべつつ、自身の首を縦に振ってこたえた。

…そ、それじゃあさっき見たガラスの結晶のようなものが、形を変えてこれになったってことなんだろうか?でも一体どういう原理で…。

…考え始めるときりがないことだけれど、今私の目の前にはよだれがたれそうになるほどのきれいでおいしそうな食べ物が並んでいる。お腹がすいて仕方がない状況でこんなものを見せられて、我慢なんてできるはずがなかった…。


「……い、いただきま……」


おいしそうで色つやのいいパンを手に取り、早速食べようと思い口に運ぼうとしたその時、私は自分の手を制止した。

そして、自分が食べようとしたパンをそのままレグルスの前に差し出した。


「あなたが作ったものなのだから、これはあなたのものでしょう?さぁ、どうぞ」


…するとレグルスは、なんだか不思議なものを見るような目で私の事を見てくる。


「(あ、あれ…?私なにか変なことしてる…?)」


彼はしばらく私の様子をうかがうように固まったままだったけれど、意を決したのか私の差し出したパンに自身の顔を近づけ、そのまま頬張りはじめた。


「……♪♪♪」

「(むしゃむしゃと食べる姿…可愛すぎる…!)」


…食べたパンがおいしいのか、レグルスは満足そうな表情を見せてくれる。

私はそのまま次の食材を手に取り、彼に差し出そうと考えた。

…しかしそれよりも先に、レグルスがバスケットの中のフルーツを自身の口でくわえ、私に向けて差し出してきた。


「…わ、私が食べてもいいの??」


私がそう言うと、レグルスは自身の首を縦にこくりと振ってこたえた。


「…ありがとうレグルス。いただきます」


レグルスに感謝を伝え、レグルスから差し出されたフルーツを手に取り、自分の口に運んだ。


…その時食べたフルーツは、今まで食べてきたどんなものよりもおいしく感じられた。

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