第12話
例の場所から急いで引き上げるカサルは、その胸の中を大いに沸きあがらせていた。
「(や、やはりエリッサは俺にとって不幸の置物だったということがこれで証明された!あの女が俺の元からいなくなった途端、こんな大チャンスが舞い込んできたのだから!)」
カサル自身、聖獣の存在の確認については長い道のりになることを覚悟しており、もしかしたら何の成果も得られずに終わってしまう可能性さえも不安視していた。
しかしなんと、まさかの調査一日目で結果が出たばかりか、現在聖獣を従えているのは自分にとってなんの脅威にもならないエリッサであるというのだ。
彼が勝ちを確信するには、十分すぎるほどの状況であった。
「(エリッサから聖獣を引き離すことなど、造作もない事。それを実現した暁には、間違いなく俺は恒久的にノーティス様の側近として召し抱えられることは間違いない!エリッサがいなくなった効果がこれほどはやくに現れてくれるとは!)」
彼は時間とともにより一段と強く自身の胸を高ぶらせながら、ノーティス第二王子のもとまで舞い戻り、早速自分の見てきたものの全てを報告することとしたのだった。
――――
「…な、なんだと!?もう見つけてきたのか!?」
「はい!ノーティス様にお喜びいただこうと思いまして、このカサル、命を懸けて全身全霊で調査に当たってまいりました!その結果、聖獣の存在と見て間違いないものをこの目で見てきました!」
これほど短い時間で聖獣を発見したと報告してきたことに、どこか疑わしさも感じていたノーティスだったものの、力強くそう言葉を発するカサルの姿を見て、それが本当の事なのであろうと受け止めた。
「よくやったぞカサル!!やはりお前にこの仕事を任せておいたのは正解だったようだな!」
「ありがとうございます!」
「それで、お前はいったい何を見てきたんだ?詳しく聞かせてくれ!」
ノーティスは興奮する心を隠す様子もなく、カサルに対してそう言葉を発した。
それに対してカサルは、自分が見てきたことのすべてをノーティスに報告することとした。
――――
「…なるほど、起こった現象自体は程度の小さいものであるようだが、そんなことができるのは聖獣をおいて他にはいないだろうな…」
レグルスが生み出した例の遊具のようなものに関する話を聞き、ノーティスは率直にそう感想を述べた。
「ノーティス様、例の場所は足を踏み入れることが困難などころか、美しく開けた場所になっていました。心地よい香りを放つ草原が広がり、その中心には新しく建てられた屋敷のようなものもありました」
「…つまり、それらは…?」
「はい。おそらくかの聖獣によって生み出されたものなのでしょう。そう考えればこれらの不自然な点に関して、すべての説明がつきますからね」
例の場所に関して、最初こそ不審に思っていた様子のカサルだったものの、そこに聖獣の力が関与しているとなれば話は変わってくる。
あんな大それたことができるとすれば、聖獣をおいて他にはいないのだから。
「しかしまさか、その聖獣と思わしき存在に好かれてしまったのがエリッサとは…。こればかりは、さすがのお前も予想外だったか?」
ノーティスからのその言葉に対し、カサルはやや得意げな表情でこう言葉を返した。
「予想外ではありましたが、それもこちらにとっては都合のいいことですよ?」
「都合がいい?どういうことだ?」
カサルはややどや顔を浮かべながら、ノーティスの疑問に答えた。
「考えてもみてください。エリッサなど、何の魅力もないただの女です。そんな相手に聖獣が懐いたのは、長きにわたって眠り続けていたから相手の事がきちんと見えていないのでしょう。普通に考えれば、エリッサになつく要素などなにもありはしないのですから」
「ふむ、確かにそうではある」
「ということは、聖獣がこの後エリッサよりも魅力に優れる人物……例えば、ノーティス様の事を見たならどうなるでしょう?間違いなくエリッサの事を捨てて、ノーティス様の方になつくとは思いませんか?」
「…なるほど、そういうことか♪」
カサルの考えを理解したノーティスは、それまで以上にその表情に不気味な笑みを浮かべてみせた。
「ククク、つまり最初になついた相手がエリッサだったのは我々にとっても幸運だったということか…♪」
「話の通じない聖獣とて、何の力も持たないエリッサと、第二王子であられるノーティス様のどちらに従うべきかなど、すぐに理解することでしょう。その時こそ、聖獣の力はノーティス様の物となるのです…!!」
「♪♪♪」
カサルの言葉に、ノーティスはさらに一段と機嫌を良くする。
そしてそんなノーティスの姿を見たカサルは、その心の中にあることを確信した。
「(よしよし、これで俺の出世は間違いない…!ここまでノーティス様を上機嫌にさせたのだから、それ相応の褒美がなくてはおかしいというもの…!!)」
カサルは思ったことが我慢できなかったのか、それをそのままノーティスに対して口にした。
「ノーティス様、聖獣を味方にすることが叶いましたなら、その時はこの私の事を…!!」
「…あ?あぁ、そうだったな、もちろんお前には贅沢してもしきれないほどの褒美を与えてやるとも」
カサルからかけられた言葉に対し、ノーティスはやや間をおいてそう答えた。
…表面上は理想的な主従関係に見える二人だが、その実お互いが心の中に思っていたことは正反対であった…。
「(…聖獣が王子であるこの私になつくのは間違いないだろうが、その力が手に入ったなら、もうこいつの役目は終わったことになるな…)」
「(…エリッサになついたのなら、肉親である俺にだってきっとなつく…!そうなったならもはや、この男に媚びを売る理由はなくなる…!あと少しの辛抱だ…!)」
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