第4話

あの4人がノーティス第二王子と面会している間、当然私はひとりぼっちになる。

けれど、あんな形で私だけ追い出されることは別に今に始まったことじゃなかった。

私が憎まれ者だという事をお父様は何度も何度もノーティス様に告げ口していて、ノーティス様が私の事を嫌いになるような裏工作をたくさん行っていることを私は知っている。

だからノーティス様は私の事が嫌いなのだと思うけれど、招待状の中であからさまに私の名前だけ除外してしまったら、周囲の人たちからあまりよくない印象を持たれてしまう可能性がある。

周囲からの評判を過剰に気にするノーティス様はそれを恐れて、嫌々ながら毎回招待状に私の名前を書くのだろう。


「(…行かなかったらお父様に怒られるし、行ったら行ったでノーティス様から怒られるし、一体どうしたらいいのだろう…)」


お父様はさっきこう言った。

自分はエリッサの事を止めたけれど、エリッサが行くと言ってきかなかったから連れてこざるを得なかったと。

…私の記憶が確かなら、事実はそれと反対だったような気がするのだけれど…。


「(…でも、これも毎回の事だし、なんだか慣れてきちゃったかも…)」


私一人が悪役にされて、結果的にその恩恵をお父様はもちろん、私の家族4人は受けている。

…今まで散々私は性格が悪いとののしられ続けてきたけれど、本当に性格が悪いのは一体どっちだろうか…。


「(…考えても仕方ないか。さて、今日も王宮で一人になれたわけだし、みんなが食事を終えるまでいつもの場所に行こうかな)」


この王宮で、私は毎回のように一人だけ部屋の外に追いやられていた。

そして、中で楽しく食事をしているのだろうみんなの事を待っていた。

普通ならただただ暇な時間を過ごすだけなのだけれど、この時の私にはこの上ないくらい楽しみなことがあった。


――――


「(…みんな、いるかな…?)」


私は身をかがめ、こっそりと目的の場所を目指して歩いていく。

そこは別に見張りの人がいるとか、特別警戒されているような場所ではない。

けれど、私が誰にとってもあまり好かれた存在でないことくらい自分でもよくわかっているので、私はできるだけ目立たないよう、存在を悟られることのないよう行動する癖のようなものがついてしまっていた。

そんな風にして足を進める私の耳に、可愛らしい声が届いてくる。


「あ!!来てくれたんだお姉さん!!」

「エリッサ遅い!!!」

「そーだそーだ!!もっと早く来てよ!!」


その声に私は心を癒されていき、今日もまたここに来てよかったと思わされる。

そう、王宮に来てのけ者にされた私の唯一の楽しみは、王宮で過ごす子どもたちとの触れ合いだった。


「みんなお久しぶり、元気にしてた?」

「会いたかったー!」

「ねぇねぇエリッサ、今日はいつまで遊んでくれるのー?」


10人ほどの子どもたちが、思い思いの言葉を私にかけてくる。

この王宮では、貴族や王族に由縁ゆえんがありながらも孤児となってしまった子供たちが引き取られ、共同生活を送っていた。

そう言われれば聞こえはいいけれど、王宮は完全にパフォーマンスとして子供たちを引き取っているだけで、そこに十分な愛情は感じられないのが実情。

見張りの人間が誰一人いないあたりからも、そういった様子を感じられる。

けれど、純粋で可愛らしいこの子たちと触れ合いたいと願う私にしてみれば、その点はむしろありがたかった。


「今日はね、みんなにお菓子持ってきたよ。一緒に食べましょう♪」

「やったーーー!!!」

「前のはあんまりおいしくなかったなぁー…。今度のはおいしいの???」

「エリッサお姉ちゃんが持ってくるやつは全部おいしいでしょ!!」


それぞれの子が思い思いの言葉を私に返してくれる。

可愛らしい子から小生意気な子まで、性格は様々だけれど、純粋で明るいこの子たちと遊ぶことだけが、今の私にはこの上ない生きがいとなっていた。


――――


子どもたちとお話をしたり、一緒にお菓子を食べたりして過ごす心地よい時間は、あっという間に過ぎ去っていく。

時計に刻まれる現在の時刻を確認した時、私はそれを改めて痛感させられた。


「(…そろそろ、ノーティス様のところに行った4人が戻ってくる頃かな…)」


部屋の外の近くで待っていろと言われてしまっている以上、ここで子供たちの相手をしていることが知られてしまったら、またいろいろと面倒なことになってしまう…。

名残おしいけれど、時間を確認した私はそろそろ戻らないといけないなと思い、その準備に取り掛かりはじめる。

…そんな私の姿を見た子供たちは、私がいなくなることを察したのか、途端にその口調を寂しそうなものに変えていく。


「…ねぇエリッサ、もう帰るの…?ここで僕らと一緒に住むのはダメなの?」

「エリッサお姉ちゃん、私もそうしたい!!ここ、私たちと遊んでくれる人誰もいないもん!!こんなところやだ!!」


そう言ってくれる子どもたちの思いは本当にうれしい。

そして、この子たちはこの王宮における自分たちの境遇をよく理解していた。

…でも、私にそれをかなえることはできない…。


「…私がずっとここにいたら、みんなが不幸になっちゃうらしいの。だからごめんね…」

「そ、そんなの嘘だよ!!!!」

「っ!?」


…どちらかというとやんちゃな性格のリルクが、大きな声で私にそう言った。

そんな言葉を発するタイプじゃないとばかり思っていた私は、そんな彼の雰囲気に少し驚きを隠せなかった。


「リ、リルク…」

「じゃあ俺がエリッサと結婚すればいいじゃん!!お、俺だって貴族家の男なんだから、できるでしょ!?」

「あ!!ず、ずるい!!僕がエリッサお姉ちゃんをもらおうと思ってたのに!!!」


リルクの言葉を皮切りに、ほかの子どもたちもまた思い思いの言葉を発し始める。

私はその言葉を聞いて、本当にうれしい思いを心に抱きながら、静かにこの場を後にすることとしたのだった…。

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