第3話
「いいかエリッサ、王宮の誰に声をかけらえれたとしても、決して言葉を返すんじゃないぞ?目を合わせることも禁止だ。分かっているな?」
「は、はい…お父様…」
「…それにしても、ほんと大した神経してるわね。いくらノーティス様が誘ってくださっていると言っても、私だったらとてもその身で王宮に足を踏み入れるなんてできないわ」
「……」
ノーティス様の手配してくださった馬車に乗り、私たち4人の家族は王宮を目指して進んでいる。
そして移動中のその中で、お父様とお母さまは執拗に私に対して重々しい嫌味を言い連ねてくる…。
「…結局、あなただって自分が可愛いのでしょう?本当に気持ち悪いわ…。これほど周りから避けられている存在なのに、どうしてそれを受け入れられないのかしら…」
「仕方ないでわよお母様、人はなかなか性格を変えられない生き物なのです。生まれた時からずっと嫌な性格で生きてきたら、それを修正することは難しいのですよ」
お母様の発した言葉に、横から相乗りするシーファお姉様。
彼女の性格はどちらかというと、このように直接的でなく間接的に相手を攻撃することが多い。
直接的な言葉をかけてくることが多いサテラお姉様とは、似て非なる存在だった。
「…あら、王宮が見えてきましたわね」
普段と何も変わらない、ぎくしゃくとした雰囲気に包まれたまま、私たちはノーティス様の待つ王宮に到着したのだった。
――カサル(お父様)視点――
王宮に到着するや否や、俺は普段と変わらない決まり文句をエリッサにかける。
「さて、これからノーティス様に直接会いに行くわけだが、エリッサ、お前はノーティス様から何を言われてもはいかいいえしか答えるんじゃないぞ。いいな?」
「は、はい…」
俺は長らくノーティス様に仕え続けてきた。
そしてこれからも長きに渡って仕え続けていくことだろう。
…それにあたり、不吉な存在であるエリッサがノーティス様との距離を縮めてしまう事だけは何としても避けなければならない。
エリッサの幸せは我々家族にとって不幸せとなることは絶対的なのだから、こいつがノーティス様との会話を通じて互いの理解を深めあう事など、絶対に阻止しなければならないのだ。
…まぁ、エリッサの事を嫌っているのはノーティス第二王子も同じであるから、特別心配はしていないが…。
「エリッサ、なにも心配はいらないわ。あなたの分まで私たちがノーティス様との距離を縮めてきてあげるから♪」
エリッサの表情を見つめながら、長女サテラはそう言葉を発する。
「落ち込むことはありませんわよ?だってどうせまともに話をしたってあなたの性格じゃ仲良くなれるはずはないのですから、余計な期待を抱かせないようにというお父様なりのあなたへの気遣いなのです。むしろお父様に感謝しなくてはね?」
サテラに続き、シーファはどこか挑発的な口調でエリッサにそう言った。
普段は衝突しがちな二人だが、エリッサをおとなしくさせるという点では本当に頼りになる。
「あなた、それじゃあ早く行きましょう。きっとノーティス様もお待ちだわ」
「よし、それじゃあ行くとしようか」
ユリアからかけられた言葉のままに、俺たちはノーティス様の待つ場所を目指して足を進めたのだった。
――――
「よく来たカサル、待ちくたびれて……」
我々家族の顔を順番に見ていったノーティス様は、エリッサの姿を見てその表情をこわばらせる。
「…カサルよ、私は確かに招待状にエリッサの名前を書いたが、本当に連れてくる奴があるか…。お前たち家族間のみならず、この王宮にまで凶を持ち込むつもりか?」
「も、申し訳ございませんノーティス様…。本人がどうしても行くと言ってきかなくてですね…」
「…不快だ。下がらせろ」
「は、はいっ!」
ノーティス様からの言葉を受け、俺はエリッサの事をにらみつける。
するとエリッサは特になんの抵抗をすることもなく、素直に俺の指示に従い、そそくさとこの部屋から姿を消していった。
そんな彼女の後姿を見て、俺は内心でこう思っていた。
「(…よしよし、計画通りだ。ノーティス様にはエリッサの心証が最悪に映っているようだし、今回の事もすべてエリッサのわがままな性格が招いたことだという事で決着したことだろう。これで俺たちはみな、あの女の被害者だという見方をノーティス様からされることだろう♪)」
誰に愛されているわけでもなく、誰に必要とされているわけでもない存在のエリッサ。
こういう時くらいは活躍してもらわないと困るというもの。
「さて、カサル。お前は普段から本当によく働いてくれているな。改めて感謝する。それを支えてくれている君たち家族にもな」
「「あ、ありがとうございますノーティス様!」」
ノーティス様からの言葉を受け、俺はもちろんの事、隣に位置する3人もまたその表情を明るくする。
やはり第二王子からの直接的な言葉は女性陣の心を大きく動かす様子。
…とはいっても、実は俺の行いはすべてエリッサを悪役に仕立てることで、味方の結束を硬くさせるというごくごく単純なもの。
それだけでここまでおいしい思いをさせてもらえるのだから、ある意味エリッサには感謝しなければならないな。
「さて、それじゃあ普段の功をねぎらって、王宮自慢の料理たちを味わってもらうとしようか!」
ノーティス様のその言葉とともに、エリッサを除く我々4人の家族に対して、それはそれはレベルの高い王宮料理が振舞われたのだった。
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