第2話

――2年前、エリッサの記憶――


「ちょっと、こっちこないでよ気持ち悪い」

「ほんと…。自分が嫌われてるって事に気づいていないの?少しは相手の気持ちも考えるようにしたら?悪い性格も少しはマシになるんじゃない?」


二人のお姉様からそんな言葉をかけられるのは、今に始まったことじゃない。


「3人目は男だとばかり思ってたのに、なんでこんなのを生んでしまったのかしら…」

「だから何度も言ったじゃないかユリア。こんな忌々しい子は産まない方が正解に決まっていると…」


両親からそう言葉をかけられることだって、今に始まったことじゃなかった。


私が両親のもとに生まれたのは、今から13年ほど前の事。

私が生まれるより前に、二人のお姉様が先に生まれていたため、私は3女としてこの家に生まれた。

…けれど、私が生まれたこのレクト家には、呪いともいえるあるジンクスがあった…。


「なんで生まれてきたのが女なんだ…。3人の女が続けて生まれてきたとき、この家の先祖の人々は例外なく不幸な目にあっている…。それもすべて、3人目の女が生まれた以降に、だ…」

「ど、どうしましょうあなた…。まさか私たちの足を引っ張るような子が生まれるはずがないと思っていたから、絶対に3人目は男の子に違いないと思っていたのに…」


レクト家では、生まれてきた3人の子どもが続けて女だった場合、その3女は家族に対して大いなる不幸をもたらす存在として知られていた。

そしてそのしきたりは二人のお姉様も当然知っており、ゆえに私は生まれた時から存在自体を恨まれることになり、愛情とは無縁の生活を送ることを余儀なくされたのだった…。


「ほんと、なんで生まれてきたの?生まれてこないのが私たちにとって一番うれしい事だってわからないの?今からでも消えちゃった方がいいんじゃない?」

「あんまり言うものじゃないですわよ、サテラお姉様。言葉は、言って分かる相手にだけかけるものなのですから」

「まぁ、それもそもうね」


サテラお姉様とシーファお姉様の2人は飽きもせず、毎日のようにこうして私に品のない言葉をかけてくる。

もう何回も何回も同じ内容の言葉を言われ続けているのだけれど、二人は前に言ったことをすぐに忘れてしまう習性でもあるのだろうか?


「お父様もお母様もさぞ大変でしょうねぇ…。あなたの事を育てたくなんてないのでしょうけど、育てなかったら育てなかったで周囲から罪人つみびととして見られてしまうんですもの。あなたの存在の方がよっぽど罪だというのにね」

「…生まれた瞬間から罪を背負うなんて、私ならとても生きてはいけませんわ~。ほんと、私はエリッサに生まれなくてよかった~(笑)」


私に言葉をかけるときの二人の姿は、それはそれは見事なほどに輝いている。

…それはきっと、私をさげすむことでしか自分に自信を持てないからのだろう。

そう考えると、二人の事もどこか少し寂しい存在のように思えてくる。


そんな生活が13年も続いていたある日の事、私と二人のお姉様はお父様から話があると言われ、部屋まで呼び出しを受けた。

お父様が私たち3人を呼び出す理由と言ったら、いつも決まってひとつしかない。


「2人とも、ノーティス第二王子が王宮にお招きだ。……一応、エリッサもな」


お父様は王宮にてノーティス第二王子に仕える仕事をしているため、時々こうして私たちは第二王子から王宮に招かれていた。

それは過去にも何度もあったことではあるけれど、二人はこれまでと変わらずその表情を色めきたてる。


「まぁ!今度こそ婚約の話かしら!!私とノーティス様は同じ年齢だし、きっと運命を感じられているに決まっているもの…!そろそろ二人とも婚約したっておかしくない年齢だし…!」

「お姉様、残念ですけれどノーティス様はきっと年下の方がタイプなのだと思いますよ?ですからもしも声をかけられるとしたら、お姉様よりも私の方だと思います」

「さぁ?どうかしら?確かに男性にとって年下の女性は特別なのかもしれないけれど、それがあなたみたいな性格の女だったら例外になるんじゃない?」

「…言ってくれますね、それを言うならお姉様の方だって」

「おいおい、そこまでにしてくれよ二人とも。せっかくノーティス様からお誘いをいただいているのに、その前から喧嘩なんてされたらたまったものじゃないぞ」


…お父様の言葉を受け、ようやく自分たちの言葉をさやに引っ込める二人。

二人のお姉様は私を攻撃するときには手を取り合うけれど、それ以外の時は基本的にこんな調子で、互いの性格を快くは思っていない様子だった。


「…それでお父様?まさかとは思うのだけれどエリッサも一緒に連れていくの?」

「はぁ…。ノーティス様は3人とも誘われているからなぁ…。断るわけにもいかないだろう…」


サテラお姉様からの質問に、お父様は私の方を見ながら、怪訝そうな表情でそう答えた。

すると、その会話を隣で聞いていたシーファがその顔に笑みを浮かべながら、相手の神経を逆なでするような口調でこう言った。


「エリッサのそういうところ、私は尊敬していますのよ。あなたががみんなから嫌われてるってことは誰の目にも明らかなのに、それでもノーティス様のお気遣いを真に受けて、ずけずけと王宮に上がり込むその図々しさは、とてもマネできるものではありませんもの(笑)」


その言葉を聞き、サテラお姉様は再び楽しそうな表情を浮かべる。

…本当にこの二人は、私を攻撃するときだけは鉄壁の絆で結ばれるらしい…。


「…シーファの言った通り、ノーティス様は本当は2人だけを誘いたいのだろうが、お前に気を遣ってくださって3人ともお招きになったのだろう。俺だって不吉な存在のお前を王宮になど連れて行きたくはないが、ノーティス様のお言葉に背くことはできない。…一応一緒に連れていくが、決して自分を出すんじゃないぞ?いいな?」

「は、はい、お父様…」


私はお父様に逆らわず、言われた通りにするほかなかった…。

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