第5話

そんな私の生活に、ある日突然転機が訪れる。

そのきかっけは、何気ない生活の中に現れた。


私が自分の部屋で本を読んでいた時、私の耳に、どういうわけか部屋の扉の向こう側から4人の家族の声が聞こえてきた…。


「…エリッサのやつ、一体いつまで家族面をしてここにいるつもりなのか…。存在自体が邪魔だという事に気づいていないのか…?」

「あなた、私も全く同じことを思っています…。ここまで私たち家族に迷惑をかけているのだから、最後くらいせめて自分からいなくなってくれないものかしら…?」

「お父様、お母様、もう追い出しちゃったらいいじゃない。私はずーーっと前からそう思っていたのに、どうしてそうしないの??」

「サテラお姉さま、それじゃダメなんですのよ。いくら邪魔な存在とはいっても、血がつながってしまっている以上周囲からは家族としてみられてしまいます。そんな彼女の事を追い出したら、私たちは周りからゴミを不法投棄したみたいな目で見られてしまいます。そうですわよね、お父様?」

「あぁ、その通りだ。…だからこそ自分からいなくなってもらいたいのだが、この調子じゃそれも無理かもなぁ…」

「えぇ!?。それじゃ私たち姉妹はずっとあの妹と家族でいないといけないわけ??そんなの絶対嫌なんだけど…」


部屋の外から漏れ聞こえてきたそれらの言葉。

間違いなく、4人は部屋の中の私に聞かせるためにわざとその位置で会話を始めたのだろう。

…私は4人と直接話をしているわけじゃないから、どこまで正確にその内容を聞き取れているかは分からない。

ただ、少なくとも4人が私の失踪を望んでいるらしいことは、疑いようのない事実だという事が改めてはっきりした…。

そしてその言葉を聞いた時、私は別に心の中に悲しい感情を抱くことはなかった。

むしろ、どこか心の中が清々するような、すっきりするような感情を抱いていた。


「あいつ一人いなくなったくらいで、誰も困りなどしないというのに…。なぜここまでうちに居座ることができるのか…」

「やはり望まれずに生まれてきただけはありますわね。私たち家族の足を引っ張ることしか考えていないのでしょう?どれだけ性格が悪いのか…」

「お母さま、それ私も全く同じこと思ってました(笑)。ああは絶対になりたくないって(笑)」


相変わらず好き勝手な言葉を並べ立てる4人。

私は決して家族が好きなわけではないし、その願いを叶えて上げたいわけじゃないけれど、そこまで思われているのならあえてそうしてあげようかと思った。


「(…そんなにいなくなってほしいなら、本当にいなくなってあげようかしら…?)」


――サテラ(長女)視点――


私はとにかくエリッサが嫌いだった。

気になる人にアプローチをかけて振られた時、欲しかった洋服が手に入らなかった時、シーファと喧嘩した時、そのすべての原因がエリッサにあるに決まっているからだ。

存在自体が周りに悪影響しかない、不幸の置物みたいな存在のエリッサ。

これだけ私たちが言い続けているのだから正しいに決まっているのに、本人はそのことを受け入れている様子もなく、性格の悪さから私たちの近くにい続けている始末。

きっと本人だって自分の疫病神っぷりは理解していて、そのうえで私たち家族を困らせたいからここに居座っているのだと思う。

それくらいどうしようもない女なのだ、彼女は。


こんな関係が一生続いていくであろうことに吐きそうな思いをしていたある日の事、ついに私たちが願い続けてきた出来事が現実になった。


「サテラお姉さま!昨日の夜からエリッサがいなくなったらしいです!!ついに自分から出て行ってくれたらしいですわ!!」

「っ!?!?」


シーファのその声を聞いた時、私は沸々と沸き上がる感情を抑えきれなかった。


「そ、それは本当!?本当にあいついなくなったの!?」

「今、お父様のお知り合いの方が形だけの調査を行っているらしいですけれど、この状況と言いタイミングと言い、もう決まりだと思いますわ♪」

「っ!!!」


私たちに不幸をもたらし続けてきた置物がようやく、私たちの前から姿を消してくれた。

その事実に私は胸を大きく躍らせ、うれしさを隠しきれないでいた。

これですべてがうまくいく!

私の将来の旦那様であるノーティス様との関係だって、これできっと盤石なものとなる!


「やっぱり部屋の前で家出を促したのが効いたみたいね。言われた通りにいなくなってくれるなんて、やればできるじゃない♪」

「お姉様の言い方、かなりきつかったから相当傷つけちゃったんじゃないですか?かわいそー(笑)」

「よく言うわ(笑)」


あの女一人がいなくなったところで、私たちは痛くもかゆくもない。

むしろそれどころか、そのおかげでこれから邪魔者のいない楽しい毎日を送ることが約束されたのだ。

これを喜ばないでいるほうが無理というものだろう。

するとこの場に、私に負けないくらいその胸を高ぶらせている人物が現れた。


「サテラ!聞いたか!ついにエリッサがいなくなった!これでようやく我々は本当の家族になることができたんだ!!」


お父様の様子はそれはもう、長年にわたって自分を苦しめ続けてきた厄介な腫物はれものがとれたような表情を浮かべていた。


「でもお父様、油断は禁物よ。性格の悪いエリッサの事だから、いったん家出したと見せて私たちを喜ばせておいて、時間をおいて帰ってきて私たちをがっかりさせるつもりかもしれないから」

「ありえそうですわねぇ。エリッサは相手の嫌がることをするのが大好きですから」

「まぁまぁ、今は喜ぼうじゃないか♪帰ってきてしまったらその時はその時だとも♪」

「…それもそうですわね♪」


お父様の言葉に、シーファもまたその表情を明るく染めていく。

当然、私もまたそんな二人に続き、その楽しい会話の中に割って入っていくのだった♪

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