第44話

『そうですか。転校生がいらっしゃったんですね』

「うん、そうなんだ」



 夜、僕は早穂さんと電話で話していた。こうして早穂さんと夜に電話をするのは日課のようになっていて、早穂さんが欠伸をした時が終わりの合図のようになっていた。


 そんなちょっとした時間は僕にとって癒しの時間になっていて、僕にとって早穂さんはやはり他の異性とは違う特別な存在になっているんだろうと感じていた。



「放課後は四季さんも交えて妖怪さんとGO! フレンド祭りみたいになってて、四季さんも嬉しそうに笑ってたよ」

『賑やかそうでいいですね。歩さんのクラスメートの皆さんは良い方々ばかりのようですから文化祭の時にお会い出来るのが楽しみです』

「四季さんも早穂さんには会ってみたいって言ってたし、文化祭に早穂さんが来てくれたらクラス外からも見に来る人はいっぱいいると思うから、事情を知らない人からしたら誰か芸能人でも来たのかってなりそうだね」



 そんな事を話していた時、進君から妖怪さんとGO! のアプリにメッセージが届いた。



「あ、進君からなんかメッセージが来てる。ちょっと確認してみるね」

『はい』



 電話を繋いだままで妖怪さんとGO! のアプリを起動させ、メッセージを確認してみると、そこには次の散歩部の活動を見学したい旨と一人連れてきたい人がいるけれど良いかという事が書いてあった。



「えっと、要約すると進君が誰か一人連れて散歩部の活動の見学に来たいって事みたい」

『それはもちろん大丈夫ですが、どなたをお連れになるのでしょうね? もしや彼女さんでしょうか』

「うーん……進君に彼女さんがいるって話は聞いた事ないけどなぁ。でも、異性からの人気は高いみたいだよ。顔立ちも整っていて性格も親しみやすい感じだし、運動神経もよくて授業も真面目に聞いてるからか成績も良いみたいだしね」

『中々気のつく方のようですしね。先日の件も魚倉さんが歩さんに迫る危機をいち早く察知した事でお父様の協力を得て対処できたわけですしね』

「そうだね」



 答えながら僕は件の事件を想起する。僕と一緒にいた早穂さんを偶然見かけた元クラスメートの骨川君が早穂さんを好き勝手するために邪魔な僕を排除しようとしたが、進君が危険を察知してうまく立ち回ってくれた事で骨川君や不良仲間は逮捕され、僕は無傷で済んだ。


 そして軽くニュースにもなって校内でも数日は話題になっていたけれど、すぐにそれは話題から消えていき、クラスメート達もその話をする事はなくなった。けれど、僕の中では一生残り続ける事ではあるので、同じような事が起きないように自分でも気をつけていこうと思える出来事ではあった。



「だから進君にも早依さんにも本当に感謝してるよ。もし僕がそれを途中で知ったら慌ててしまうだろうし、それを骨川君達に気取られたら計画もご破算になってただろうからね。でも、僕ももっと他の人から頼られるようになりたいな……」

『私から見れば歩さんは十分頼りがいのある方ですよ。それに、担任の先生が歩さんにお願いしたのも歩さんなら大丈夫だと思ったからですし、日頃から歩さんは様々な方から慕われる素敵な男性なんだと思います』

「早穂さん……うん、ありがとう。少し照れるけど元気が出たよ」

『それはよかったです』



 早穂さんの言葉に僕は微笑む。どんな時も早穂さんの言葉は僕の心にスーッと染みていき、心がささくれだちそうな時でもそれを癒して潤していく。そんな魔法のような言葉をいつも早穂さんはくれるんだ。


 そんな早穂さんに何かを返す事が出来ているかといえば、僕はまったく返せていないと思っている。だからこそ、いつか早穂さんにしっかりと恩返しがしたい。僕自身の力で早穂さんの事を癒し、幸せな気持ちでいっぱいにしてあげたい。それが当面の僕の目標になるだろう。



「……これからも頑張らないと」



 早穂さんに聞こえないような声で呟いた後、僕は早穂さんとの会話を楽しみ、僕達の夜は今日も静かに更けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る