第42話

 翌日、家族にいってきますと言った後、いつものように学校に向かった。ほんの一ヶ月前までは学校はただ授業を受けて帰るだけの場所だったけれど、友達が出来た事で学校にいく楽しみが生まれ、学校に向かう足取りも少し軽くなっていた。


 そして学校に着いて教室に入ると、クラスメート達と楽しそうに話していた進君が手を振ってくれた。



「おはよう、歩」

「おはよう、進君。進君はアップデートってした?」

「もっちろん! お前よりはランクは低いだろうけど、すぐに追いついてみせるからな!」

「別に競う物ではないと思うけど……でも、楽しそうでよかったよ」



 話をしながら席に着くと、話をしていたクラスメートと一緒に進君が僕の席の前に立ち、なんだか楽しそうな様子で顔を近づけてきた。



「歩、実は転校生がこのクラスに来るらしいぞ?」

「こんな時期に転校生? 珍しいね」

「そうなんだよな」

「見たことない女子を担任が連れてるのを見かけたって聞いたから転校生なのは間違いないと思う」

「あ、それも女の子なんだ」

「ああ。だから、男子連中は何だかんだで浮かれてる。気にしてないようなフリはしててもな」



 進君の言う通り、男子達はどこかソワソワしており、女子達もそれを呆れた様子で見ながらもワクワクはしているようだった。



「転校生かぁ……たしかにどんな子かは気になるね。仲良く出来ると良いんだけど……」

「お前なら大丈夫だろ、歩。まあでも、その女子までお前の物にするなよ?」

「そうだぞ、共田。お前には屋敷のご令嬢がいるんだからな」

「正直言えばそれだって予想外だったんだから、転校生まで持っていかれたら困る」

「早穂さんとはそういう関係じゃないったら」



 宇佐美うさみつばさ君と飛騨ひだ優羽ゆうわ君に対して僕はため息をつく。宇佐美君と飛騨君は進君と同じサッカー部の部員で、宇佐美君は少しパーマのかかったマッシュヘアと爽やかな顔立ちが人気な好青年、飛騨君は落ち着いた雰囲気が大人っぽいと女子から人気が高い茶色のスポーツ刈りの男子だ。


 進君はフォワードだけど、宇佐美君と飛騨君は二人ともミッドフィルダーらしく、宇佐美君は攻撃的なミッドフィルダーで飛騨君はボランチと呼ばれる守備的なミッドフィルダーなのだそうだ。


 そんなサッカー部トリオと話をしている内にホームルームの予鈴が鳴ると、クラスメート達は次々と席に座り始め、程なくして担任の仙田せんだ先生が教室内に入ってきた。



「みんな、おはよう」

『おはようございます』

「せんせー、転校生来るってマジっすか!?」

「どんな子どんな子ー?」



 みんなの様子に仙田先生は苦笑いを浮かべる。



「まあ慌てるな。とりあえず入ってきてもらおう。四季しき、入ってきてくれ」

「はい」



 鈴を転がすような声が廊下から聞こえ、クラスメート達、特に男子達はとても盛り上がっていた。僕もその声には好印象を抱いていたけれど、何故かその声をどこかで聞いた事があるような気がしていた。


 そして教室のドアが開くと、黒いセミロングの小柄な女の子が姿を見せ、クラスメート達からざわめきが漏れる中で四季さんは教壇の前に立った。



「それじゃあ自己紹介をしてもらう。四季、頼んだぞ」

「はい」



 四季さんは黒板の方に向くとチョークを持ち、自分の名前を書き始めた。そして書き終えると同時にこちらに向き直り、綺麗なお辞儀をした。



「四季陽花はるかといいます。皆さん、これからよろしくお願いします」



 四季さんは顔を上げてから言うと、可愛らしくにこりと笑った。

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