第二章 道中
第41話
「……よし、アップデート完了」
ある平日の夜、僕は自室で携帯を見ながら呟いた。そしてアップデートをしたばかりのアプリを起動すると、提供会社などのロゴが表示された後にタイトルが表示されるとそれを読み上げる声と主題歌が流れ始めた。
けれど、アップデートをしたからかタイトル画面の主題歌は変わっていて、新鮮さを感じると同時に少しだけ残念な気持ちになった。
「前の主題歌も結構好きだったんだけどなぁ。まあアップデートで色々変わった事だし、どうなったか見に行ってみよう」
ワクワクしながら僕は画面をタップする。僕がやっているのは、妖怪さんとGO! という散歩をテーマにした位置情報を使うゲームで、その大型アップデート日が今日だったので僕は学校にいる時から待ちきれなかった。
ただ、待ちきれなかったのは僕だけじゃないようで、僕の学校での初めての友達になった魚倉進君を始めとして話を聞いて始めてくれたクラスメートや魚倉君と同じサッカー部の部員達もこのアップデートは待ち望んでいたようだった。
「そういえば、今回からフレンド機能だけじゃなくてランク機能も追加されたんだっけ。えっと、ランクはたしかメインメニューのところに……」
メインメニューの画面に行くと、左上に四角い枠に囲われて“10”という数字が表示されていた。
「僕は10か。まあでも、そんなにまだお題を多くは達成していないし、そんなもんだよね」
このランクは散歩中のお題の達成や報酬として獲得した妖怪の種類に応じて貰える経験値が貯まる事で上がるようなので、より達成感を感じられる物になっているようだ。
そしてランクが上がる毎にランクアップ報酬として妖怪の育成や進化に使う素材が貰えるようだけど、キリの良い数字の時にはそれに応じて特定の妖怪がプレゼントされるみたいだった。
「その妖怪ってなんなんだろうな……」
僕はメインメニューからプレゼントの画面に移行する。すると、そこには?のアイコンと共に“妖怪を獲得しました”という文章が表示されていて、受け取ってみると画面にはヒラヒラとした木綿の布のような妖怪が現れた。
「これは……一反木綿だね。妖怪もののアニメだとよく登場する妖怪だし、盛り上がりを考えてわりと有名どころばかりをチョイスしてるのかも」
そんな事を考えながら他の追加要素を見に行こうとしたその時、ある人からの電話が入り、僕は嬉しさを感じながらその電話に出た。
「もしもし」
『もしもし。歩さん、こんばんは』
「うん、こんばんは。早穂さん」
『アプリケーションのアップデートが終わって少し見ていたらお話がしたくなってついお電話をしてしまいました』
「僕も見てたところだよ」
『そうなのですね。ふふ、離れていても同じ事をしているなんてなんだか嬉しいです』
早穂さんの声は弾んでいた。御供早穂さんは僕が下校中に出会った女の子で、ご両親がどちらも社長さんをしているといういわゆる社長令嬢だ。そのため、大きなお屋敷に住んでいたりメイドさんがいたり、言葉遣いや立ち居振舞いも洗練されているので本来なら僕とは住む世界の違う人だと言える。
そんな早穂さんと僕は散歩部という部活動をしていて、土日祝のみの活動でこれまでも色々なお題を一緒に達成してきた。あまり優れた点のない僕が本当に早穂さんと一緒にいて良いのかと今でも思うけれど、早穂さんの身を任されている以上は活動には真剣に取り組むし、無理をさせないように気を付けている。それが友達であり同じ部活動をする仲間としての責務だから。
『そういえば、今回からフレンド機能が追加されているのでしたね。早速申請をしても良いですか?』
「うん、もちろん。えっと、僕のIDは……」
IDを早穂さんに教えると、僕と早穂さんがフレンドになった事を報せる通知が届き、僕は嬉しさで胸がいっぱいになった。
「フレンドになったよ。改めてこれからよろしくね」
『こちらこそよろしくお願いします。あの、よろしければもう少しお話をしませんか?』
「うん、良いよ」
『ありがとうございます!』
嬉しそうに話を始める早穂さんに返事をしながら僕は満ち足りた気分になっていた。そしてそんな時間はしばらく続き、僕達の穏やかな夜はゆっくりと更けていった。
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