第38話

 その日の夜、僕は一人で外を歩いていた。何も夜にまで散歩をしなくて良いだろうと言われるかもしれないけれど、その目的は散歩じゃなくある人に呼ばれたからだった。



「早穂さんの事で話があるとは言ってたけど、話って一体なんだろ……?」



 僕を呼び出したのは早依さんであり、目的地は近所の公園。以前に早依さんも交えて部活動をした日の帰りに今後のためにと連絡先を交換していたが、その初連絡がこんな形になるとは思っていなかった。


 そうして歩き続けて公園に着き、早依さんを探すために歩いていたその時だった。



「おい」

「え?」



 声をかけられて振り返ると、そこには骨川君の姿があった。しかし、僕を見るその顔はとても友好的な物ではなく、ニタニタと笑いながら近づいてくるその手には小さなお酒の缶や剥き身のナイフが握られていた。



「骨川君……」

「ようやくお前をぶちのめせるぜ。なあお前ら」 



 その声に応えるように僕の周囲の暗闇からは何人もの人が現れ、その人達は骨川君と同様にニタニタ笑いながらお酒やタバコ、スタンガンやナイフを持っていた。



「骨川ぁ、コイツぶちのめしたらあの写真の女を好きにして良いんだろ?」

「写真の女……?」

「お前、最近仲の良い女いるんだろ? ソイツの事だよ。前にお前達が一緒にいるところを見て以来、欲しくて欲しくてたまらなかったんだ。見た目も良いが、味も良さそうだったからなぁ。ヒャッハハッ!」

「骨川君……!」

「そのためにはお前が邪魔なんだよ、共田。まあ協力者のおかげでお前をここに呼び出せたわけだが」

「協力者……?」



 その瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡る。



「そ、そんな……」

「アイツも言ってたぜ? お前と仲良くしてるのはあくまでもフリで、邪魔だったから油断させるために近づいたってな」

「そんな事って……ん?」



 骨川君の言葉を聞いて僕は疑問を感じた。僕をここに呼び出したのは早依さんだ。けれど、早依さんと初めて出会ったのは二回目の部活動の時で、早穂さんが早依さんや歌穂さんと話していた事で出会っただけで、早依さんから僕に近づいてきたわけじゃない。つまり、骨川君が言う協力者というのは早依さんではない別の人という事になるのだ。



「でも、だとしたら一体誰が……」



 協力者の正体について思わず考え込みそうになってしまったその時、突然強い光が僕達の事を照らし出した。



「なっ……!?」

「なんだよ、この光は……!?」



 骨川君とその仲間達が眩しそうにしていると、そこに何人もの人が走ってきた。



「現行犯で確保だ!」

「おう!」



 よく見ると、それは警察官だった。青い制服を着た警察官達は骨川君達をあっという間に包囲し、抵抗する間もなく骨川君達は警察官達にねじ伏せられたり手首を捕まれたりした。



「な、なんだよ! 離せよ!」

「抵抗するな!」



 突然の出来事に何がなんだかわからないままボーッとしていると、一人の警察官を伴って二人の人物が僕に駆け寄ってきた。



「共田!」

「歩君!」

「魚倉君、それに早依さんも……」



 近づいてきた魚倉君と早依さんが僕の横に立つと、骨川君は信じられないといった顔で魚倉を見た。



「おい、魚倉! てめぇ、これはどういう事だ!」

「見ての通りだよ、骨川。お前はまんまと俺の罠にはまったんだ」

「罠だと……ふざけんな! てめぇ、言ってやがったよなぁ!? 共田に近づいたのは根暗でウザいソイツを不登校にするためで、そのために俺や仲間達の力を借りたいって!」

「それはウソだけどな」

「ウソ、だと!?」



 怒りに震える骨川君を前にしながら魚倉君は動じずに頷く。



「そうだ。この作戦のためにわざわざ早依さんにも話をつけて、こうして共田を呼び出してもらったんだ。まだ手を出す前だったが、その手に持ってる物で十分お前達をしょっぴいてはもらえるり」

「魚倉……!」

「警察の皆さん、コイツらをお願いします」

「魚倉ぁーっ……!」



 骨川君の怒りと憎しみの声が響いた後、骨川君とその仲間達は警察官によって連れていかれ、その様子をボーッと見ていた時、僕の肩に早依さんの手が置かれた。



「早依さん……」

「歩君、危ない目に遭わせてしまい本当にすまなかった。この件について親御さん達にもしっかりと謝罪はさせてもらう」

「共田、俺もごめん。正直怖かったよな?」

「怖かったというか……まだ状況が飲み込めてないというか……」

「まあそうだよな。とりあえず今日のところは共田には帰ってもらっても大丈夫ですか?」



 魚倉君の問いかけに警察官は静かに頷く。



「ああ、構わないよ。彼はあくまでも呼び出しに応じて来てくれただけで、早依さんと君に事情聴取をすれば良いからね」

「わかりました」

「それじゃあ三人ともパトカーに乗ってくれ」



 警察官に促されるままに僕は早依さんと魚倉君と一緒にパトカーに乗り、未だ状況が飲み込めてない中で送り届けられる事になった。

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