第37話
お題達成から十数分後、僕達は近所のスーパーに来ていた屋台で買った中身がそれぞれあんことカスタードクリームの大判焼きを持ってお屋敷まで帰ってきた。門の前には吉良さんの姿があり、吉良さんは僕達の姿を見ると恭しく一礼をしてくれた。
「お嬢様、共田様、おかえりなさいませ」
「ただいま戻りました、芽衣子。お土産を買ってきましたのでみんなでいただきましょう」
「お土産ですか?」
「はい。近所のスーパーに大判焼きの屋台が来ていたので買ってきたんです」
「そういう事でしたか。畏まりました」
芽衣子さんは大判焼きが入った袋を受けとり、そのまま門を開けてお屋敷へ向けて歩き始めたが、その背中を早穂さんは指先でつついた。
「芽衣子」
「いかがなさいましたか?」
「たまにでも良いのですが、芽衣子の事をお姉様と呼んでも良いですか?」
「え……」
吉良さんは驚く。それは僕達の予想通りだったけど、その驚いた顔に何故か僕は違和感を感じていた。
「吉良さん……?」
「……申し訳ありません。少しボーッとしてしまいました」
「大丈夫ですか? お疲れなら本日はもうおやすみになっても……」
「いえ、大丈夫です。すぐに準備をいたしますね」
吉良さんは落ち着いた様子で答えてそのまま歩いていったが、さっき感じた違和感は拭えずにいた。
「吉良さん大丈夫かな……」
「心配ですね。ですが、とりあえず私達も中へ入りましょう」
「うん」
僕達も中へ入ると、広間には昨日と同じように早依さんと歌穂さんの姿があった。
「おう、おかえり」
「おかえりなさい。先ほど芽衣子が少し暗い表情をしていましたが、何かあったのですか?」
「疲れているだけだとは思いますが……それとも先ほど芽衣子にお姉様と呼んでも良いかと聞いたのが何か良くなかったのでしょうか」
「芽衣子にか……」
「なるほど……」
早依さんと歌穂さんもどこか浮かない顔になっており、僕はどうしてもその理由が気になった。
「もしかして吉良さんは過去にご家族に不幸でもあったんですか?」
「そういうわけじゃないが……まあ本当に疲れているだけかもしれないし、俺達も話を聞いておく。二人はとりあえず散歩を終わりにしたらどうだ?」
「そうですね。では、終わりにしましょうか」
「うん」
答えた後、僕達は携帯を取り出した。そしてお互いに撮り合った合掌する手の画像をアップロードして散歩を終わるをタップし、そのまま妖怪を獲得するをタップした。
「今回は……あ、すねこすりだって」
「私のは
「そもそも毛羽毛現が体を洗うのかわからないけどね。さて、一応今回で東西南北全ての方角に行ったけど、次はどこに向かうお題が出るのかな」
「そうですね……私は電車に乗って少し遠くまで行ってみたいです。お父様、お母様、よろしいですか?」
早依さんと歌穂さんは顔を見合わせてから頷いた。
「まあ良いか」
「そうですね。芽衣子はあまり良い顔はしないと思いますが、段階を踏んで少しずつ遠くへ行くのならば良いですよ」
「ありがとうございます。楽しみですね、歩さん」
「うん、そうだね」
微笑む早穂さんに対して答えていると、そこにお皿やティーポットなどを載せたカートのような物を押した吉良さんが現れた。
「お待たせいたしました。お嬢様と共田様から頂いた土産物を温めなおしましたのでどうぞお召し上がりください」
「ふふ、芽衣子も一緒ですよ」
「私もですか?」
「そうだな。どうやら人数分あるようだから芽衣子も座って食べるぞ」
「……畏まりました」
吉良さんが答え、広間の長テーブルに大判焼きと淹れたての紅茶が並べられた後、僕達はお昼前のおやつタイムを始めた。
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