第35話

 日曜日の午前中、僕は部活動のためにお屋敷に向けて歩いていた。昨日のプレゼントについては両親はとても喜んでくれ、母さんに至っては嬉し涙を流してくれる程だった。


 ただ、意味をまだ理解していない悠貴と愛花はズルいと口を尖らせていて、宥めるために近い内に何かを買ってあげる約束をするはめにもなっていた。



「二人ももっと大きくなったら同じように父さんと母さんに感謝を伝えてくれると良いな」



 成長した二人が両親に感謝を伝え、今度は父さんも嬉し涙を流す姿を想像して僕は胸の奥がポカポカしていた。歩き続ける事数分、お屋敷に着いてみるとそこには準備万端な様子で立っている早穂さんがいた。



「早穂さん、おはよう」

「おはようございます、歩さん。今日も楽しい部活動にしましょうね」

「うん。そういえば、ウチの両親も喜んでくれたよ。母さんなんて嬉しさで泣いてたくらい」



 早穂さんは両手を合わせながら嬉しそうに笑う。



「そうなのですね!」

「まあ悠貴と愛花はズルいって口を尖らせてたけどね。おかげで近い内に何かを買ってあげる約束をする事にもなったよ」



 ため息混じりに言うと、早穂さんはクスクス笑った。



「まだ小さな子達ですからね。けど、良い子達ですからいずれは歩さんの考えを理解して自分達も同じようにご両親に感謝の気持ちと共に何か贈り物をすると思いますよ」

「うん。今でも夕食の配膳やおつかいを手伝ってくれるし、なんだったら中学生の頃には気づくと思うよ。兄の贔屓目を抜きにしても二人とも他の子よりも賢いからね。ただ、学校で良い成績を取ったり褒められたりしてきた時には僕達にも褒めるようにせがんでくるし……」



 二人からの褒めて褒めて攻撃の事を思い出しながらため息をついていた時、早穂さんは羨ましそうな顔をした。



「やはり弟妹がいるとそういう事もあるのですね。賑やかそうで羨ましいです」

「けど、早穂さんには身近にお姉さんがいるよね」

「え?」

「芽衣子さん。たしかに芽衣子さんはメイドさんではあるけど、早穂さんにとってはお姉さんみたいな存在でもあるんじゃない?」

「芽衣子がお姉さん……」



 早穂さんはしばらく考えた後、にこりと笑った。



「たしかにそうですね。年も近く、色々な事を教えてくれる大人なお姉様です」

「だよね。お姉様って呼んだらとても驚きそう」

「私もそう思います。さて、それでは本日の部活動を始めましょうか」

「うん」



 僕達は携帯を取り出して妖怪さんとGO! を起動する。そしてお題の画面に移ってワラシちゃんが御籤箱を振ると、中から一本の御籤棒が出てきた。



「えっと、今回は……」

「“南に向かって歩いて、亡くなった人を思い出しながら歩こう”ですか……」

「亡くなった人を思い出しながら……まあいないわけではないけど、今回はちょっとしんみりとしそうなお題だね」

「そうですね……ですが、お題はお題です。本日もこなしていきましょう」

「うん」



 返事をした後、早穂さんと一緒に南に向かって歩き始めた。

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