第34話
いつも通りの街に戻ってから買い物を済ませた後、僕達はお屋敷に向けて歩いていた。
「買い物も無事に終わったし、後はしっかりと帰るだけだね」
「そうですが……重くはないですか? ご自身のだけでなく、私が買い物した物も持っていただいてますが……」
「このくらい平気だよ。普段はあまり男らしいところを見せられてないし、今日ぐらいは良い格好をさせてほしいな」
「そうは仰いますが、私から見ればいつでも男らしいですよ? しっかりと引っ張ってくださるところも諦めずに頑張ろうとするところも」
「ふふ、ありがとう。あ、見えてきたよ」
お屋敷が見えてくると同時に門の中から吉良さんがゆっくりと出てきた。目の前で足を止めると、吉良さんは僕達を見ながらいつも通りの落ち着いた様子で口を開く。
「おかえりなさいませ。本日のお散歩はいかがでしたか?」
「はい、バッチリでした」
「途中で諦めかけましたが、歩さんの機転でなんとかお題も達成出来ました」
「それは良かったですね。ところで、そのお荷物は?」
不思議そうにする吉良さん。それはそうだろう。そんなものを持って帰ってくるとは思わないからだ。
「途中で買い物をしてきたんです」
「これも歩さんの考えなんですよ。とりあえず中に戻ってから何を買ってきたか見せますね」
「わかりました。ではどうぞ」
吉良さんの後に続いてお屋敷の中に入る。そして広間に着くと、そこには早依さんと歌穂さんの姿があった。
「おっ、帰ってきたか」
「おかえりなさい。芽衣子から聞きましたが、今日は一級河川を渡った先まで行ってきたのでしたね」
「はい。それと……こちらはお父様とお母様に」
「ん、俺達にか?」
「あら、なんでしょう」
早穂さんが渡した包みを二人は開けると、中から出てきた物を見て嬉しそうな顔をした。
「ほう、紅茶のセットか。種類も幾つかあるみたいだな」
「私のはポプリですね」
「本当はお仕事でも使える物にしようと思いましたが、お家でゆったりとしていただける方が良いかなと思いまして。そして芽衣子にもこちらのアロマオイルを」
「私にもですか?」
「はい。お父様とお母様、そして芽衣子にいつも働いていただいているからこそ今の私の生活がありますから。本当にありがとうございます」
早穂さんの言葉に早依さんと歌穂さんは嬉しそうな顔をし、芽衣子さんもしばらくアロマオイルを見てから大切そうに持ち直した。
「ありがとうございます、お嬢様。大切に使わせていただきますね」
「俺達もありがとうな、早穂」
「ふふ、やはり贈り物を頂けると嬉しいですね」
「喜んでいただけて良かったです。歩さんの考えではありましたが大成功でしたね」
「ほう、歩君の。歩君もご両親に何か差し上げるのか?」
「はい。いつも両親に働いてもらっている分の感謝をこめて贈るつもりです」
歌穂さんが微笑む中、早依さんは贈り物をテーブルの上に置いてから僕に近づいて頭の上に手を置いた。
「やはり歩君は大したものだな。どうだ? 早穂と一緒になる気はないか?」
「い、一緒にって……!」
「歩さんが良いなら私も……」
「さ、早穂さんまで……! とりあえずその件については後にして、今は散歩を終わりにしよう!」
「ふふっ、そうですね」
早穂さんが答えた後、僕達は携帯を取り出して画像をアップロードしてから散歩を終わるをタップした。そして妖怪を獲得するをタップして、僕の画面に座敷わらしが現れる中で早穂さんは不思議そうな顔をした。
「おや……?」
「早穂さん、どうしたの?」
「出てきたのは犬神なのですが、色が黒いような……」
「え!? それって散歩中に話した色違いじゃない!?」
「そうですね。ふふ、そんなに出るはずのないと思っていた物が出てくると嬉しいですね」
早穂さんが微笑む中で早依さんは早穂さんの肩に手を置いた。
「良い子のとこには良い事がやってくるもんだな。さて、散歩も終わった事だし、腹が減っただろ? そろそろ昼食にしよう」
「そうですね。歩さんもご一緒にどうですか?」
「共田様も召し上がる事を想定して多めに食材は用意してありますので問題はありませんよ」
「それならお言葉に甘えますが、その前に家に連絡をしますね」
早穂さん達が頷いた後、僕は家に電話をかけ、早穂さんの家でお昼をごちそうになって来る事を伝えた。少し早めに日頃の感謝を添えながら。
「さて、これで良いな」
家に向かって歩きながら俺は呟く。決行日は明日。準備はしておいたから問題はないだろう。
「成功したら、いや、必ず成功させてみせる。そのために今日まで動いてきたからな」
成功した後の事を想像しながら呟き、俺はある奴の顔を思い浮かべる。
「待ってろよ、共田」
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