第32話

 北に向かって歩き始めてから数分後、楽しそうに話をしながら歩いていた早穂さんは気持ち良さそうに体を上に伸ばした。



「んっ……やはり晴れている日に外を歩くと気持ちが良いですね。お日様の光も暖かくて眩しいですし、体が喜んでいるような感じがします」

「そうだね。それにしても、カッコいいと思う字っていうお題も中々珍しいよね。これは形とか意味合いが自分でカッコいいと思ったらカウントして良いのかな?」

「そうだと思いますよ。あくまでもカッコいいと思う字ですからね。フィーリングで大丈夫なはずです」

「わかった。そういえば、今度アップデートでフレンド機能がようやく追加されるみたいなんだ」

「フレンド機能ですか?」



 早穂さんは首を傾げる。



「うん。フレンド機能っていうのは、同じアプリをやっている人達で繋がれる機能で、ゲームによってはフレンドになるとその人の力を借りられたりその人がアップロードした写真なんかを見られたりするんだよ。それで、妖怪さんとGO! にもその機能がようやく追加されるんだって」

「そうなのですね。ですが、何故今まで追加されなかったのでしょう?」

「そこまではお知らせには書いてなかったけど、妖怪さんとGO!ってこれまではただお題に沿って歩いて妖怪を育成したり集めたりするだけだから、他のユーザーとの交流機能とかはなかったんだよね」

「言われてみればそうですね。SNSでは他の方がアップロードなさっている写真やプレイしてみた感想などが散見されましたが、たしかにそれだけではありましたからね」

「それで、今回からは近くにいる自分以外のユーザーのアバターが画面に表示されるようになったりフレンド同士でグループになる事も出来るようになるんだって。後は妖怪同士のトレードは出来ないけど、育成や進化に使う素材のトレードはフレンド間で出来て、一度出会っただけでは仲間にならない妖怪の実装も予定されてるみたい」



 お知らせ画面に書かれていた事を要約して伝えると、早穂さんは目を輝かせた。



「そんな事まで出来るようになるのですね! 私もまだ仲間になっていない妖怪の進化素材が手に入って少し困っていたのでそれは助かります!」

「一応図鑑では今のところ実装されてる妖怪は全部見られるから重大なネタバレにはならないし、いつ仲間になるかわからないから持て余しちゃうんだよね。まあフレンドにメッセージも送れるみたいだし、これで僕達もプレイはしやすくなるね」

「そうですね。それにしても、妖怪同士のトレードが出来ないのは何故なんでしょうね?」

「妖怪さんとGO! は同じ妖怪は出現しないようになってる上に一日に獲得出来る妖怪の数は一体までみたいだからね。けど、噂だと通常の色とは違う色違いの妖怪がいるらしくて、それらは手に入れたら図鑑で確認出来るようになるし、通常色とは違う存在扱いのようだから通常色の後に色違いとか色違いの後に通常色が手に入るみたいな事はあるみたいだよ」

「色違いの妖怪……それは気になりますが、図鑑を埋めてからでないとそんなに出てくる事は無さそうですね」



 早穂さんが残念そうに言うのに対して僕は頷く。



「それは同感。一応、ワラシちゃんの声優さんは座敷わらしの色違いを見つけていて、一般のユーザーでも手に入れた人はいるみたいだけどそれでもまだ少ないみたい」

「手に入ったらそれだけで幸運という事ですね」

「そうだね……っと、着いたみたいだよ。吉良さんが言っていた一級河川に」



 目の前には大きな橋と澄んだ水が流れる川があり、近くにあった青看板には一級河川としっかり書かれていた。



「ここを渡った後にカッコいいと思う字を探せば良いんだったよね」

「そうですね。何が見つかるかはわかりませんが、まずは楽しむ事を優先にしながら歩きましょう」

「うん」



 返事をした後、僕は早穂さんと一緒に橋の上を渡り始めた。

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