第31話

 土曜日、僕はいつものように早穂さんのお屋敷に向かっていた。魚倉君にはまた見学に来るかと聞いてみたけれど、用事があると残念そうに言われてしまった。


 因みにクラスメートの何人か、特に男子達は早穂さんに会いたがってついていかせてほしいと懇願してきたけれど、魚倉君が文化祭までの楽しみにしておくように言った事で渋々諦めてくれた。



「早穂さんは嬉しそうにしながら会うとは思うけど、あまりに多くなると疲れて具合を悪くしちゃうかもしれないから魚倉君には感謝かな」



 そんな事を考えながら歩く事数分、お屋敷に到着すると吉良さんと話していた早穂さんが嬉しそうな笑顔を向けてくれた。



「歩さん、おはようございます。本日も良いお天気ですね」

「おはよう、早穂さん。吉良さんもおはようございます」

「はい、おはようございます。本日もお嬢様をお願いいたします」

「はい、お預かりします。早依さんも歌穂さんはお屋敷の中ですか?」

「旦那様と奥様は朝食後のコーヒーを楽しんでいらっしゃいます。本日も散歩部の活動でお嬢様がどのような経験をして帰ってくるか楽しみにしていらっしゃるようです」

「親としてはそういうのは気になるんでしょうね」



 吉良さんが頷く中、早穂さんは吉良さんを見ながら微笑む。



「芽衣子も立場としてはメイドですが、私達の大切な家族ですからね。お父様もお母様も芽衣子の事はいつも心配しているんですよ?」

「お気遣い感謝いたします。ですが、私にとって一番なのはお嬢様の身や健康を守る事ですし、私自身も自分の健康にはしっかりと気をつけていますので」

「それでもです。しっかりと休息を取る時は取って、自分の体を労ってあげてください。約束ですよ?」

「お嬢様……畏まりました、ひとまず本日はそうしてみます」



 吉良さんの返事を聞いて早穂さんは満足そうに頷く。




「はい。そういえば、歩さんのクラスメートの方々が私に会いたがっているという事でしたが、本日はご一緒ではないのですね?」

「うん。何人かは参加したがってたんだけど、魚倉君が文化祭までの楽しみにしておいた方が良いって言ったからみんなそうする事にしたみたいなんだ」

「そうですか……残念ですが、その方がお会い出来た時の楽しさが増えると思いますし仕方ありませんね」

「そうだね。さて、今日のお題を見てみようか」

「はい」



 僕達は携帯を取り出して妖怪さんとGO! のアプリを起動した。そしてお題の画面に移動し、ワラシちゃんが御籤箱を振ると、中から一本の御籤棒が出てきた。



「今日のは……」

「“一級河川を越えた先でカッコいいと思う字を探そう”ですね。一級河川とはそもそも何でしょうか?」

「一級河川というのは、国土の保全または国民の経済上の観点から特に重要な水系として国土交通大臣が定めたものですね。この近くであれば……北に向かった先に一級河川があったかと思います」

「今度は北ですね。問題はその先でカッコいいと思う字を見つける事ですが……それは行ってみないとわかりませんね」

「だね。よし、それじゃあ今日も活動を始めようか」

「はい!」



 早穂さんが返事をした後、僕達は吉良さんに行ってきますと言ってから今日の部活動を始めた。





「……よし、行ったな」



 二人が歩いていったのを確認した後、俺は二人を静かに見送る人に声をかけた。



「あの」

「はい。初めてお見受けいたしますが、どちら様でしょうか?」



 メイドさんが不思議そうに聞いてくる中、俺は静かに答えた。



「俺はいま歩いていった共田歩のクラスメートです」

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