第30話
『文化祭、ですか?』
「うん、そうなんだ。早穂さんに来てほしいって声があってね」
その日の夜、僕は早穂さんに電話をしていた。他愛ない雑談の後、僕が学校で早穂さんについて少し話した事を謝りながらその事を切り出すと、電話の向こうから早穂さんの嬉しそうな声が聞こえてきた。
『是非伺いたいです! 私、文化祭という物自体が初めてなので楽しみです!』
「それなら良かった。みんなも喜ぶと思うよ」
『お父様とお母様、そして芽衣子と一緒に参りますね。ふふ、待ちきれませんね』
「でも、大丈夫? 同年代とはいえ、結構な人数と会う事になるし、疲れたりしない? それに、もしかしたら他の人からもじろじろ見られたり変な人に声をかけられたりするかもしれないよ?」
『それまでに体力をつけてみせますし、お父様達がいればへっちゃらです。それに、歩さんだって守ってくださいますよね?』
それを聞いてドキッとした後、僕は気持ちを落ち着けるために一度咳払いをしてから答えた。
「もちろん。それまでに僕も体を鍛えておくよ」『楽しみにしていますね。あと、いつかは歩さんもお連れしてパーティに参加したいですね』
「パーティって……たぶん結構色々な人が来るよね? 大企業の社長さんとか芸能人とか」
『お父様から聞いたお話ではそうですね。けれど、テーブルマナーなどはそれまでに芽衣子に教えてもらえば良いと思いますよ。私も芽衣子に教わりましたから』
早穂さんに礼儀作法について教える芽衣子さんの姿を想像しながら僕は頷いた。
「そうだね。それにしても芽衣子さんって本当にスゴいよね。僕達と年も近いはずなのにスゴく落ち着いていて大人っぽいし」
『芽衣子は18歳ですが本当に大人っぽいですよね。小さい頃からとても落ち着いていましたし、お稽古事にも熱心に取り組んでいましたよ』
「そういえば、早穂さんと同じで通信制の学校なんだっけ。同じ学校なの?」
『そうですよ。なので、勉強も教えてもらっていますが、芽衣子も小学校と中学校では行事には参加して来なかったので今回のお呼ばれは喜ぶと思いますよ』
「喜んでもらえると良いなぁ。といっても、まだまだ先の話だから何をやるかまでは決まってないけどね」
『決まった時は教えてくださいね。あ、でも……知らないままで行った方がそれはそれで楽しい気も……』
電話の向こうで悩む早穂さんの姿を想像したらあまりにも可愛らしかったため、僕は思わずクスクスと笑ってしまった。
『もう、何を笑っているんですか?』
「早穂さんが楽しそうに悩んでるなと思ってね」
『それはもちろんです。これまで経験のない文化祭へのお呼ばれですからね。しっかりとおめかしをしていかないと……!』
「そんなに気合いを入れなくても大丈夫だよ。自然な感じで文化祭を楽しむ早穂さんの方が僕は見たいから」
『そうですか? ううむ、文化祭へのお呼ばれというのは中々難しいのですね』
早穂さんは困ったように言い、その声や想像した姿がとても可愛らしく、僕はまたクスクス笑ってしまった。そしてそれから僕達は妖怪さんとGO! などの話に移り、夜が深くなる中で二人が眠くなるまで僕達は会話を楽しんだ。
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