第29話

 昼、僕の席の近くにはいつもと違って多くのクラスメートがいた。正面に座る魚倉君も苦笑いを浮かべており、周囲に集まるクラスメート達を軽く見回した。



「お前ら、そんなにあの子の事が知りたいのか?」

「当たり前だろ!」

「少なくとも、俺が今まで生きてきた中で一番の美少女だからな! お近づきになりたいのは当然だろ!」

「清楚な黒髪お嬢様萌え」

「うん、今一人だけちょっと毛色は違ったけど、まあ良いよ。女子達まで集まってくるなんて意外だったな」



 その言葉に女子達は笑みを浮かべる。



「私達だって興味がないわけじゃないからね」

「これまで私達と全然関わってきてない共田君に可愛い女の子の知り合いがいると聞いて何も聞かないわけにはいかないよ」

「そうそう。私達も後ろからちょっと見えてたけど、共田君だって良い笑顔してたし、そんな笑顔を引き出せる子がどんな子なのか聞かせて欲しいな」

「なるほどな。共田、お前はどうだ? やっぱりこんなに集まられると迷惑か?」



 僕は少し考えてから答える。



「うーん……たぶん本人は喜ぶと思うし、ご両親も他校とはいえ会いに来てくれる人が増えるのは嬉しいと思う。ただ、まだそんなに体力があるわけじゃないし、少し遠くに行くのは僕も不安があるから、もし会いに行くとしても長時間っていうのは止めてあげてほしいかな」

「あー、そういえば土曜日にもその辺は心配してたしな。じゃあ、どんな子か教える分には良いのか?」

「うん。本当は本人に聞いてからにしたいけど、少しくらいなら許してくれるんじゃないかな?」

「わかった」



 魚倉君は答えた後、早穂さんの事をみんなに話し始めた。そして話が終わると、一斉に僕に視線を向けた。



「共田……お前、そんな男子の理想を詰め込んだような女の子と土日祝に一緒にいるのかぁ……?」

「その上、名前で呼びあって、両親にも挨拶済みだとぉ……?」

「あ、挨拶済みって! 僕と早穂さんはそういう関係じゃなく、あくまでも同じアプリを使いながら一緒に散歩をしてるだけの──」

「それだけでも羨ましいんだよ!」

「くそぉっ!」



 男子達が羨ましがったり悔しがったりする中、女子達はそんな男子達を冷ややかに見てから僕に話しかけてきた。



「ねえ、共田君。その子って文化祭とかに呼べないかな?」

「文化祭?」

「そう。他のとこもそうみたいだけど、ウチの文化祭って二日目は一般の人達にも来てもらえる日だし、呼んでもらえたら私達も話が出来るなと思って」

「喜ぶとは思うよ。体が弱かった事で今まで出来なかった事は多いみたいだし、文化祭に来てほしいってお願いしたらご両親やメイドさんまで連れてきてくれると思う」

「そっか。それならお願いしてもらっても良いかな?」

「うん、わかった」



 僕が答えていると、魚倉君は嬉しそうな様子で僕の肩に腕を回した。



「へへっ、やっぱり他の奴とも喋れるじゃん。だから、これからはガンガン話してこうぜ、共田」

「魚倉君のおかげではあるけどね」



 少しだけ照れ臭さを感じながら答えていたその時、突き刺すような視線を感じて僕は教室の入り口に視線を向けた。そこにはクラスメートの骨川ほねかわ織斗おりと君がおり、その目には冷たさと憎しみのような物が宿っていて、僕はゾッとしてしまった。


 そして骨川君がそのまま教室を出ていくと、魚倉君も骨川君には気付いていた様子で小さくため息をついた。



「アイツ、他所のクラスには友達いるようなんだけど、あまり良い噂を聞かないんだよな」

「そうなんだ」

「だから、あまり関わらない方が良いけど、御供さんのためにも注意は向けておいた方がいい。御供さんのような子にアイツが目を付けたらよくない事が起きるからな」

「うん、そうだね」



 魚倉君の言葉に頷いた後、僕は引き続きクラスメート達からの質問に答えた。けれどその間も僕はどうしてもさっきの骨川君が気になってしょうがなかった。

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