第27話

『いただきます』



 昼頃、僕は早穂さん達と一緒に食堂で手を合わせていた。目の前にはとても美味しそうなお昼ごはんがあり、見るからに食欲をそそる物ばかりだった。



「……うん、美味しい。吉良さん、僕の分までありがとうございます」

「いえ、構いませんよ。何人分増えようとお作りするだけですから」

「ふふ、芽衣子は本当にスゴいですね。それにしても、本日のお散歩も無事に終了出来そうでよかったです」

「本当に歌穂に救われたからな。歌穂、今度はお前が部活動に参加してみるか?」

「それも面白いかもしれませんね。ビデオ通話で見ていた時も楽しそうだなと思いましたし、私もたまにはこういった運動をするのもよさそうですから」



 歌穂さんが乗り気な様子を見せると、早依さんは歌穂さんに話しかけた。



「だったら俺達も部活動を始めるか? 散歩じゃなくウォーキングとかランニングとかで」

「他のスポーツも捨てがたいですね……色々考えられますし、また新たな楽しみが生まれたような気がします」

「そうだな。これも歩君がウチの娘を部活動に誘ってくれたからだ。歩君、本当にありがとう」

「ありがとうございます、歩君」



 早依さんと歌穂さんの二人に感謝されて僕は萎縮しながらも答える。



「い、いえ……僕だって妖怪さんとGO! のアプリが出るのを見つけられなかったら思い付く事は出来なかったですから」

「きっかけはそれだったとしても思い付いて実行出来ている事がスゴいんだ。自己責任でやらないといけない中で何か行動を起こそうとするなんて中々出来ないからな」

「あ……」



 それを聞いて魚倉君も同じような事を言ってくれた事を思い出した。受け身の姿勢でしか何も出来ないと言う僕に対して十分積極的に行動出来ていると言ってくれ、僕の事をスゴいとも言ってくれた。


 周囲から好かれている上に実績もしっかりと残している魚倉君や早依さんからそう言ってもらえるのは誇らしいし、自信がつくきっかけにもなる。


 けれど、だからといって調子に乗ったりはしない。変に自信をつけて調子に乗ってしまっては良い方へは絶対に行かないだろうし、最悪の場合周囲の人にも迷惑をかけてしまいかねないからだ。



「ありがとうございます。まだしっかりと自信を持つ事は出来ないですが、もう少し色々な事に挑戦しても良いのかなとは思えました」

「ああ、それで良いと思う。さて、綺麗にまとまった事だし、そろそろ散歩を終わりにしたらどうだ?」

「あ、たしかに。早穂さん」

「はい、歩さん」



 僕達は携帯を取り出した後、幼稚園の壁に描かれた絵の画像をアップロードして散歩を終わるをタップした。そしてその後に出てきた妖怪を獲得するをタップすると、霧の中から後頭部が異様に突き出た子供のような妖怪が現れた。



「これは……ぬらりひょんだね」

「私は河童のようです。見た目も可愛らしくて私は好きです」

「ぬらりひょん……妖怪達の親玉って世間では言われてるが、実際のところは人の家に知らぬ内に上がり込んでは茶を飲んでいくだけの妖怪って聞いたことがあるな」

「早依さんは妖怪に詳しいんですか?」

「いいや、そんなでもない。けど、そのアプリの件もあるから少しずつ調べてはいるんだ」

「そうなんですね」



 携帯をしまいながら答えると、早依さんはニッと笑いながら僕達を見回した。



「さて、散歩も無事に終わった事だし、ここからは歩君の事について色々聞かせてもらうか。親としては娘と仲良くしている異性なんて気になってしょうがないからな」

「そうですね。歩君、色々聞かせてもらいますね」

「は、はい……!」



 緊張しながら答え、その様子を見ながら早穂さんがクスクス笑った後、僕は早依さんと歌穂さんからの質問に答えながら楽しい時間を過ごした。

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