第26話
出発してから30分が経った頃、僕は早穂さんの様子が気になって声をかけた。
「早穂さん、大丈夫そう? 疲れてない?」
「大丈夫です。昨日も思ったのですが、確実に体力はついていますし、走っても大丈夫だと思えるくらい元気なんです」
「適度な運動をしているのもそうだが、外に出て歩く事が出来ている事で気持ちも上向きになって、それが体調にも影響しているんだろうな。こんな事なら昔から一緒に歩いてみればよかった」
「でも、それに関しては実際にやってみないとわからなかったわけですし仕方ないと思いますよ。それにしても、中々見つからないですね……動植物の絵」
昨日のお題のように今日の散歩も少々難航しており、僕は少し困り始めていた。休憩を挟むとしても見つかる可能性が上がるわけではないし、散歩を継続すると僕達の体力が削られると同時にお屋敷からもどんどん離れていく。それだけは避けないといけなかった。
「もしかしたら帰りながら見つかるかもしれませんし、お屋敷まで戻ってみますか?」
「それも手だけどな……よし、ここは歌穂にも聞いてみよう」
「お母様に……そういえば、ビデオ通話で私達のお散歩を見ていらっしゃるのでしたね」
「度々俺も歌穂とは話してたんだが、お前達は自分達で話す事が楽しくて気付いてなかったみたいだな。という事で、早速聞いてみるか」
僕達が頷いた後、早依さんはビデオ通話で僕達の様子を見ている歌穂さんに話しかけた。
「歌穂、何か思い付く事はないか?」
『そうですね……何かのお店の看板などが有力ですが、その近くに保育園や幼稚園はありませんか?』
「保育園や幼稚園?」
『そうです。以前、同じ電車に乗っていた方から、お子さんが通っている幼稚園で先生達と園児が一緒に壁に思い思いの動物などの絵を描いて遊んだ事があるというお話を伺った事があるので、そういった園が他にもあるかもしれませんよ』
「なるほど、その可能性は考えていませんでしたね」
「たしかにな。流石は歌穂だ、愛してるぜ」
早依さんの言葉に歌穂さんはクスクス笑う。
『私も貴方を愛していますよ。早穂も歩さんも無理をせずにお散歩を楽しんでくださいね』
「わかりました、お母様」
「わかりました」
僕と早穂さんが答えた後、僕達は歩きながら幼稚園や保育園を探した。そして探し始めてから十数分後、早穂さんが嬉しそうに声を上げた。
「あっ、ありました! あれは幼稚園ではありませんか?」
「ほんとだ。幼稚園って書いてるね」
「流石は俺達の娘だ。それで壁に絵は……お、描いてる描いてる。どれも味がある良い絵だな」
白い石壁にはクレヨンで描いたと思われるライオンやゾウなどの絵があり、早依さんが言うようにどれも描いた子の思いや楽しさが伝わってくる良い絵ばかりだった。
「ふふ、お母様に助けられましたね」
「そうだね。因みに、早穂さんって絵を描くのは得意?」
「普通程度だと思いますが……歩さんはどうですか?」
「僕は得意ではないかも。前に悠貴と愛花に付き合って画用紙に絵を描いてたんだけど、描いた物が何かわからない様子だったし、説明したら二人とも笑ってたからね」
「まあ下手だったとしても少しずつ学びながら自分らしい絵を描いていけば良いと思う。さあ、早く写真を撮っとけ。写真が必要なんだろう?」
僕と早穂さんは頷いた後、幼稚園の名前などが入らないように気を付けながら壁に描かれた絵を写真に納めた。
「これで、よし」
「お題、達成ですね」
「うん。それじゃあまずはお屋敷に戻ろうか」
「だな。よし、戻るぞお前達」
早依さんの言葉に頷いた後、僕達は歌穂さんに見守られながらお屋敷に向けて歩き始めた。
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