第24話

 翌日、僕はいつもと同じように早穂さんのお屋敷へと向かっていた。昨日は魚倉君がいたけど、今日は他に用事があるようでそれを僕に電話で伝える声はどこか悔しそうだった。



「まあ見学に来るのは別に良いけどね。魚倉君とも仲良くなれたら良いなとは思うし」



 悔しそうにする魚倉君を想像してクスクス笑った後、僕はそのままお屋敷へ向けて歩き続ける。そしてお屋敷に着くと、そこには早穂さんの他に何故か黒いジャージ姿の早穂さんのお父さんの姿もあった。



「早穂さん、お待たせ」

「お疲れ様です、歩さん。本日も良いお天気ですね」

「うん、そうだね。早穂さんのお父さん、こんにちは。もしかして早穂さんの見送りですか?」



 それを聞いたお父さんはニヤリと笑い、早穂さんは少し困ったように、けれど嬉しそうな笑みを浮かべた。



「え、えっと……?」

「この格好を見て何か思い付かないか?」

「格好……」



 僕は早穂さんのお父さんに目を向ける。早穂さんのお父さんは早穂さんのジャージと同じ上質そうな黒いジャージ姿で、髪型もオールバックのままだった。けれど、何故黒いジャージ姿なのかはわからなかった。そうして考えていた時、僕は一つの答えに辿り着いた。



「もしかして……早穂さんのお父さんも今日は一緒に歩くんですか?」

「その通りだ。早穂から聞いたが、昨日は歩君のクラスメートが見学という形で一緒に歩いたんだろう? だったら、俺も楽しそうに歩く早穂の姿を見たいと思ったんだ」

「お母様は芽衣子と一緒にお留守番ですが、私達の様子はビデオ通話で見る予定ですよ」

「つまり、間接的に早穂さんのお母さんもついてきている形になる、と……」



 あまりに突然の事に僕が驚いていると、早穂さんのお父さんは軽く腕を組んだ。



「うーむ、その呼び方はやはり面倒じゃないか? ここは早穂さんのを取って“お義父さん”や“お義母さん”でも良いんだぞ?」

「えっ……!? いやいや、早穂さんとはまだそういう関係ではないですし……!」

「まだ、という事はそうなりたいという願望はあるんだな?」

「う、それ……は……」



 早穂さんと恋人になった自分の姿を想像して顔を赤くする僕を早穂さんのお父さんがニヤニヤしながら見てくる中、早穂さんは呆れた様子でため息をついた。



「お父様、歩さんをあまりからかわないでください」

「くくっ、ここまで純情な少年も昨今では珍しいからな。まあとりあえず名前は教えておくから、そっちで呼んでくれ。俺は御供早依さい、妻は御供歌穂かほだ」

「早依さんと歌穂さんですね。もしかして早穂さんの名前ってお二人の名前を一文字ずつ取ってつけているんですか?」

「そうだ。歌穂がそうしたいと言ったから俺もそれに賛成したんだ。特に異論はなかったし、自分達の子供に自分達の名前から一つずつ取ってつけるというのは血以外の物も分け与えたようでなんだか良いと思ったからな」

「そうだったんですね」



 それだけ早穂さんは早依さんと歌穂さんから愛されて育っていて、それに対して過剰に甘える事なくしっかりと生きてきたからこそ今の早穂さんがあるのだろう。ウチもたまに喧嘩する程度で普段は穏やかではあるけど、早穂さん達の家族の形はとても綺麗だと思うし、正直良いなと思った。


 そんな事を考えていると、早穂さんは携帯を取り出した。



「では、本日もお散歩を始めましょうか」

「そうだね」



 僕も携帯を取り出し、妖怪さんとGO! のアプリを起動した。そしていつもの要領でお題の画面まで行き、ワラシちゃんが一生懸命に振る御籤箱から御籤棒が一本出てくると、僕達はそれを読んだ。



「えっと、今回は……“東に向かって歩いて、絵に書かれた動植物を探そう”だね」

「昨日は西でしたが、今日はその逆の東ですね」

「そして絵に書かれた動植物を探そう、か。絵であればどんなものでも良さそうだから、まだお題としては軽い方なのだろうな」

「そうですね。よし、それじゃあ今日の活動をやっていこう」



 早穂さんと早依さんが頷いた後、早依さんがビデオ通話を始める中で今日の散歩を始めた。

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