第22話
歩き始めてから30分が経った頃、僕は辺りを見回してから二人に話しかけた。
「中々鳥も虫もいないね」
「そうですね。虫はともかく鳥ならスズメやカラスがいると思っていたのですが……」
「まあたまにはこういう事もあるけど、今日がその日なのはちょっとタイミングが悪いな。かといって、ペットショップに行って鳥を見るのはちょっとズルだしな」
「そうだね。それは見つけたとは言わないから」
けれど、少しずつ早穂さんの体力についても不安は感じ始めていた。体力がつき始めたとはいえ、体調を突然崩すという可能性は十分にあるし、出来るならそろそろお屋敷に戻り始めたいところではあった。
ただ、本人はまだ大丈夫と言うだろうし、僕も本人の意見を尊重したいが、無理をさせて体調を崩してしまった結果、吉良さんやご両親にまで心配をかけるのは避けたかった。
「どうしたら良いかな……」
早穂さんの様子を見ながら何か方法はないかと考えていたその時、どこから鳥の囀りのような物が聞こえてきた。
「え? こ、これって……」
「鳥の囀り……けれど、どこから?」
「たしかに。それにしても、スズメやカラスとも違う感じだよな」
僕達は立ち止まって鳥の囀りに耳を澄ませた。すると、頭の中にある鳥の姿が浮かんだ。
「この囀りはもしかして……」
「何の鳥かわかったのですか?」
「うん、たぶんね。ひとまず色々な家の軒下を見てみよう」
「軒下? そこに巣を作る鳥なのか?」
「そう。昔から益鳥として親しまれてきた鳥がね」
そうして僕達は歩きながら色々な家の軒下を見てみた。数分後、とある古い日本家屋の軒下を覗き込んだ時、探していた鳥の巣が見つかった。
「あっ、あったよ!」
「この鳥は……」
「なるほど、ツバメか」
「うん。夏鳥のツバメは北海道から九州までの地域に飛来して、人家や商店、駅なんかにこういうお椀型の巣を作るんだ。そして8月中旬から10月にかけて東南アジアに渡るんだって」
「東南アジアまで……」
「だいぶ遠くまで渡るんだな、ツバメ達って」
「そうだね」
ツバメを見ながら僕達が話をしていると、家の中から一人のおばあさんが出てきた。
「おや、賑やかだと思ったら……ツバメを見に来たのかい?」
「あ、はい。散歩をしながら鳥や虫を探していたらツバメの囀りが聞こえてきたので」
「このツバメ達はいつもここに巣を作っているのですか?」
「そうよ。この家自体が大正時代からあるもので、壊れたり古くなったりしたところを時々直してはいるけど、家が出来た頃からツバメが軒下に巣を作るようになったみたい」
「大正時代から……そういえば、ツバメは益鳥って言ってたけどなんでなんだ?」
魚倉君からの質問に僕はツバメを見ながら答える。
「益鳥っていうのは、作物や樹木の害虫を捕食してくれる事で間接的に人間に益をもたらしてくれる鳥の事だよ。そしてツバメが巣をかける家は縁起が良いとかツバメは田んぼの神様を背負ってくるとかその県などによってツバメに関する言い伝えみたいなのは色々あるみたいだよ」
「そうなのですね。歩さんは物知りでスゴいです」
「本をずっと読んできたからに過ぎないけどね」
「けど、その知識で俺達は助かったわけだし、そこは誇って良いと思うぜ。見つけたのも色々ありがたい言い伝えのあるツバメだったのもなんかスゴいしな」
その言葉を聞いて僕は少しくすぐったい気持ちになっていた。そしてしばらくの間、僕達はおばあさんと一緒にツバメ達の姿を眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます