第21話
三人で歩き始めてから数分が経った頃、僕と早穂さんの後ろを歩いていた魚倉君が話しかけてきた。
「今回みたいなお題の時って明確な目的地とか決めずに歩いてるのか?」
「最初のお題の時は僕の家と近くの公園を経由してお屋敷まで戻ってくる感じでやったけど、基本的にはそうしようかなと思ってるよ。お題の達成よりも早穂さんの体力作りが目的ではあるからね」
「なるほどな。にしても、ここ数日話してて思ったけどさ、共田って結構普通に喋れるじゃん。いつも学校じゃ誰とも喋らずに授業の予習したり本を読んでたりするけどさ」
「そうなのですか?」
早穂さんの問いかけに僕は苦笑いを浮かべながら答える。
「うん。早穂さんにはもう話したけど、僕って昔から団体行動みたいなのが苦手だし、誰かと話すのってそんなに得意じゃないんだ。だから、小学校の頃から友達らしい友達もいなかったし、そんなに困った試しもないから積極的に作るなんて事もしなかったんだ」
「そうか……」
「でも、早穂さんが初めましての時にお屋敷の中へ迎え入れてくれた事や魚倉君が仲良くなりたいからって話しかけてくれた事には感謝してるよ。話す事は今でも苦手だし、積極的に誰かと関わろうとは思わない。でも、こうして関わってくれようとしてくれる人がいるのは嬉しいし、そうしてくれようとした気持ちには応えたいなって思うよ。受け身の姿勢過ぎてカッコ悪いとは思うけどね」
世間一般で好かれるのは早穂さんや魚倉君のように何事にも積極的で相手に嫌な思いをさせないような接し方が出来る人で、僕は正直対極的なところにいる。
実際、今だって後ろ向きな事ばかり考えてるし、二人みたいな人をただ羨むだけだ。それじゃあいけないんだろうけど、僕にはどうしても前を向く事が出来ない。昔からそうしてきたからこそ、そういう生き方しか出来ないんだ。
そんな事を考えていた時、魚倉君は少し呆れたようにため息をつく。呆れさせてしまったなと思いながら謝ろうとしていると、魚倉君はスッと僕の目の前まで歩き、僕の顔を両手で挟んだ。
「むぐっ!?」
「お前のどこが受け身の姿勢だよ。この活動自体がお前発信なら十分積極的に行動出来てるよ」
「う、魚倉君……」
「部活動をやりたくてやってる奴はいるけど、それはあくまでも学校という範囲の中でやってるから安心して出来たりやってみようとしたりするだけで、そういう庇護がない中でもやろうとする奴なんて中々いないよ。危険があってもそれは自己責任だからな」
「…………」
「でもお前はやろうとして、今こうしてしっかりと活動をしている。他人のための上に何か自分に特別利益があるわけでもない状態で。俺はそんなお前をスゴいと思うよ、共田」
魚倉君は真っ直ぐに僕を見る。その目はとても真剣で、嘘をついてる様子は一切なかった。そして魚倉君は僕から手を離すとニッと笑った。
「まあウチの学校にも中々いない程の女の子と一緒に歩けるだけでもだいぶ利益があると言えるけどな。羨ましいぞ、このこの~」
「や、止めてよ……」
「御供さんだって共田の事はスゴいと思ってるだろ?」
「はい、もちろんです。歩さんが提案してくださったからこそ私はこうして外を歩いて色々なものに触れられ、貴重な体験も出来ていますから」
「そうだよな。あーあ、こんな共田をクラスの奴に見せるだけでもだいぶ印象変わると思うのになぁ」
魚倉君は残念そうに言うが、僕的にそれはちょっと困るのだ。あまり目立ちたくはないから。
「そ、それは流石に……」
「だよな。だから、クラスの奴らには内緒にして、俺だけが楽しむ事にするよ」
「まあそれなら……」
「さて、俺のせいで歩くの少し止めさせちゃってたし、さっさと行こうぜ。鳥や虫を見つけないといけないみたいだしな」
早穂さんと一緒に頷いた後、僕達は再び歩き始めた。
「……魚倉君、ありがとう」
二人には聞こえない程の声で僕は微笑みながら魚倉君にお礼を言い、二人と一緒に僕はゆっくりと歩いていった。
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