第7話
散歩を始めてから数分後、御供さんは機嫌が良さそうに鼻唄を歌い始めた。
「ふんふんふーん♪」
「御供さん、楽しいですか?」
「はい、とっても。こうしてただ歩くだけでもワクワクしてきますし、自分の足で外を歩く事が出来るだけでも本当に嬉しいです。自分がこうして生きているんだという実感が湧いてきます」
「生きているという実感……たしかに大事ですね」
「はい! あぁ……生きているって本当に素晴らしいですね」
御供さんは本当に嬉しそうに言う。その姿を見て美しいと思いながら僕は辺りを見回した。周囲には近所に住んでいる人がいたが、その誰もが御供さんに目を奪われていて、僕には一切目をくれなかった。その周囲の様子はそれだけ御供さんが周囲の目を引く人という証左になっており、改めて御供さんの身に何も起きないように気を付けないといけないと感じた。
「あ、そういえば」
僕はある事を思い出して御供さんに話しかけた。
「御供さん」
「はい、なんでしょう?」
「そういえば、どちらが部長で副部長かというのを決めてなかったなと思って」
「たしかにそうですね。ですが、部長は共田さんに決まっていますよ。この散歩部を提案してくださったわけですし、私は共田さんが部長で良いと思いますよ」
「それじゃあ御供さんが副部長ですね。といっても、部員も僕達しかいませんけどね」
「私はそれでも良いですよ。他の人と一緒に歩くのも楽しいかもしれませんが今は共田さんと一緒にいるのが楽しいですから」
御供さんはふわりと笑う。その可憐さに目を奪われ、心すらも奪われる人は多いだろうと思える物であり、そんな彼女と一緒にいる僕もそれに相応しい存在にならないといけないと感じた。心身ともに鍛え、彼女の隣にいても良いと周囲から思われるようなそんな存在に。
そんな事を考えながら歩く事数分、不意に御供さんが話しかけてきた。
「共田さん、一つ聞きたいんですが良いですか?」
「良いですよ。なんですか?」
「良いニュースと悪いニュース、どちらから聞きたいかという問いかけってよくありますよね? 共田さんならどちらを先に聞きますか?」
「そうですね……悪い方を先に聞いて、良い方を後に聞くかもしれないです。ガッカリする事があるなら先に終わらせてしまって、その後に聞く良い方で下がってしまった分の気持ちを盛り上げたいですし」
「なるほど」
「御供さんはどうですか?」
御供さんは少し考えてから答えた。
「私は好きなものを先に食べたり楽しいことを優先したくなったりするので良い方から先に聞いちゃうかもしれないです。その後に悪い事を聞いてガッカリしてしまうのはちょっと悲しいですけどね」
「そうですね。なんというか、ここに二人しかいないのにこうも逆の意見が出るなんてなんだか不思議ですね」
「ふふ、そうですね。はあ……世の中も良いニュースと悪いニュースでは良いニュースが多くなれば良いニュースに期待する人の方が多くなるんでしょうね」
「そうだと思います。9:1までは期待出来ませんけど、せめて7:3くらいにはなってくれたらと思います」
「そのくらいは望んでもバチは当たらないでしょうしね」
「はい。あ、そういえば自然に世の中について考えようの部分を達成してましたね」
それを聞いて御供さんはキョトンとしたが、やがてクスクス笑い始めた。
「そうですね。政治や金融面のような大きな事でなくとも、こういった私達にとって身近な世の中について考えるだけでも十分だと私も思います」
「ですね。あ、そろそろウチに着きま──」
「あ、にーちゃんだ!」
「ほんとだー!」
そんな元気な声を上げながら同じ顔をした男の子と女の子が僕達に向かって走ってくる。
「
「うん!」
「おかーさんもそろそろ来るよ!」
「えっと……共田さん、この子達は?」
「あ、御供さんは初めましてですよね」
僕は悠貴と愛花の頭に手を片方ずつ置いた。
「この二人は悠貴と愛花、僕の弟と妹で双子です」
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