第5話

 土曜日の午前中、僕がお屋敷まで行くと門の外には既に御供さんと吉良さんが立っていて、近づいていくと紺色のジャージ姿の御供さんは僕に気づいた様子で笑顔を浮かべてくれた。



「共田さん、お待ちしていました。初めての部活動、本当に楽しみです!」

「僕も楽しみにしてました。御供さんのご両親が賛成してくれたのは少し驚きましたけどね」

「旦那様も奥様もお嬢様がやりたい事なら喜んで手助けをすると仰っていましたからね。そのために共田様からご連絡のあったジャージまで特注しましたから」

「あ、とても上質そうなジャージだなと思っていましたけど、特注品だったんですね」



 僕は御供さんの姿を眺める。初めて出会った時の白いワンピース姿ももちろん素敵だったけれど、今日のジャージ姿もとても似合っていて素敵であり、散歩とはいえ運動をするからかポニーテールにしているのも相まってスポーティーな感じでまた違った魅力があった。



「ほんと綺麗だな……」

「え?」

「あ、御供さんを見てたらつい言葉に出ちゃって……」

「まあ……うふふ、ですがそう言ってもらえてとても嬉しいです。共田さんもとても似合っていますし、キリッとしていて素敵ですよ」

「そ、そんな事……けど、嬉しいです。ありがとうございます、御供さん」

「どういたしまして」



 上品な笑みを浮かべる御供さんの姿を見ながら少しだけ頬が熱を帯び始めると、吉良さんはコホンと咳払いをした。



「仲がよろしいのは構いませんが、活動を始めないとすぐに時間が経ってしまいますよ」

「あ、そうですね。えっと、それじゃあまずはアプリを起動しましょうか」

「はい」



 そして僕達はそれぞれの携帯を操作して妖怪さんとGO! のアプリを起動させる。提供会社のロゴなどが出た後、妖怪さんとGO! というタイトルと共にタイトルを読み上げる可愛らしい女の子の声と主題歌が流れ始めた。


 この声の主は人気の若手声優さんらしく、アイドルアニメのメインキャラなどをやった経験のある新進気鋭の人なのだそうだ。そしてアプリのガイドを務めているミニキャラのワラシちゃんの声優さんでもあるようでこのアプリ内ではこの人の声を聞く機会は結構多いようだ。


 そしてタップをして始めると、のんびりとした音楽が流れる中で画面にはゲーム開始時に作った自分のアバターや周辺の道路や建物などを表示したミニマップが、画面下には“ホーム”や“お題”といった言葉が表示されていて、僕達は揃ってお題という部分をタップした。


 すると、荘厳な印象の音楽が流れると同時に画面の左上にお題という言葉が表示され、画面中央のワラシちゃんが巫女服に着替えて御籤箱を持ってニコニコ笑っている下には“お題を貰う”と“日替わりお題”の二つがあった。



「さて、お題を貰いましょうか」

「そうですね。このお題を貰うでよろしいですか?」

「それでも良いんですけど、初めの内は日替わりお題で一緒のお題を貰いましょう。軽く試した感じだとお題を貰うは設定されている言葉をルーレットで二つ組み合わせて一つのお題にする形で日替わりお題は既に設定されているお題をこなす物みたいなので」

「そうなんですね。わかりました、ではこの日替わりお題にしますね」

「はい」



 そして僕達は日替わりお題をタップした。すると、ワラシちゃんは御籤箱を可愛らしく振り始め、やがて一本の御籤棒を取り出した。



「なになに……“適当に30分歩いて世の中について考えよう”?」



 それが僕達の初部活で行うお題となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る