第3話

 その日の夜、僕は自室で携帯を弄りながら今日の事を思い出していた。夕暮れ時になるまで話をした後、お土産だと言われて家族分のケーキと高級な紅茶を持って帰った。その事や御供さんの件を話すと家族はとても驚いたけれど、これまで友達らしい友達も作ってこなかった僕に少しでも話をする相手が出来た事はとても喜んでいた。もちろん、御供さん達に会う時は失礼のないようにと釘は刺されたけれど。



「色々な所へ行ったり見聞きしたりしたい、か……体力がない状態だとたしかに遠くへ行くっていうのは厳しいだろうし、吉良さんも心配するから難しいだろうなぁ。でも、こうして出会ったのも何かの縁だし、何か手立てを見つけてあげたいな」



 正直な事を言えば、僕が御供さんに対して何かをしてあげないといけないわけではない。これまで他人とあまり関わらなくても困らなかったし、今後もそのスタンスを貫くつもりだったから。


 けれど、御供さんの哀しそうな顔を見てどうにかしたいと思ってしまったのだ。感謝されたいとか気に入られて良い思いをしたいとかそういうのじゃなく、自分にしては珍しく家族以外の誰かのために何かをしてあげたいと思ったんだ。


 そうして何かないかと思いながら携帯を弄っていた時、とある広告が画面に表示された。



「ん、なんだろう」



 よく見ると、それは明日からリリースされるというゲームの広告だった。内容的にはゲーム内のキャラクターから指定されたお題に沿って歩いてそれを達成していくという物のようで、お題を達成すると妖怪が出てきて、それを仲間にしていってコレクションしていくという位置情報を利用したゲームのようだった。



「へえ、競い合う要素がないなら勝ち負けで発生するストレスもないし、運動不足の人とか誰かと一緒に何かをやりたい人には向いてるかもしれないなぁ。コレクション機能もあるなら、頑張って集めたいと思うだろうし」



 よく調べてみると競い合う要素こそないけれど仲間になった妖怪を育成して成長させる機能や箱庭ゲームの要素はあるようで、課金の要素もログインボーナスやプレイ中にランダムで手に入る妖怪の育成に使うアイテムの購入や箱庭ゲームで置ける施設の購入くらいであり、ガチャの要素もないようだから無課金でやってもこれといって問題はないように思えた。



「結構面白そうだな。事前登録だけしておこうかな」



 手早く事前登録を済ませ、携帯を傍らに置いていていたその時だった。



「……あ、そうか。その手があるじゃないか!」



 ある事を思いついた直後、僕は携帯を再び手に取り、日中に交換しておいた御供さんの番号にかけた。二回、そして三回のコール音が聞こえた後、携帯からは御供さんの声が聞こえ始めた。



『もしもし……』

「もしもし、御供さん。夜に電話してごめんなさい。いま大丈夫でしたか?」

『はい、大丈夫ですよ。先程、お父様とお母様に共田さんの事についてお話をして、いまお部屋に戻ってきたばかりですから。それで、どんなご用でしょうか?』

「お話したい事があるので、明日またお屋敷まで伺っても良いですか?」

『明日も来てくださるんですか!? はい、もちろんです! 楽しみにしていますね!』



 電話の向こうの御供さんの声はとても弾んでおり、こんな僕でも喜んでくれるのは本当に嬉しかった。


 そしてお屋敷に行くだいたいの時間を伝えた後、僕達はおやすみを言い合い、そのまま電話を切った。



「よし、これで良いな。あとは吉良さんが許してくれるかだけど……それは明日話をしてからだな」



 久しぶりに楽しみでワクワクするのを感じながら僕は机に向かい、さっき思いついた計画について夜遅くまでペンを使ってノートにまとめ始めた。

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