恋するのり弁

寅次郎

恋するのり弁

私は藤崎南 32歳。下町の弁当屋の娘。現在無職。しかも引きこもりがち。妹もこの一軒家で住んでいる。


母、妹で弁当屋を営んでることになる。そんな私は厄介者として扱われている。これはそんな私のストーリー




『いつまで引きこもるんだ、弁当屋手伝いなさいよ!』






この言葉がいちばんツラい。好きで引きこもって


るワケじゃない。何だか心がつらいのだ。しかし親は


解ってくれない。でも私も母の気持ち解ってあげら


れてないから、おあいこである。そんな私はバイトす


ることにした。駅前のすき家で夜のバイト。実家を出


て一人暮らししようかと思ったからである。バイト


初日、ひどく疲れた。労働なんて5年ぶりくらいだ。


母や妹らは三日坊主で終わるだろうと言っている。し


かしバイト3日目を迎えたその日、私は気づいた。2


日目から気にはしていた、中年の男性。どこか雰囲気


があってカッコいい。その人が今日も来てくれたの


だ。実際には私に会いにじゃなく、牛丼に会いに来て


くれたわけだけど。それがきっかけで私はバイトに行


く楽しみがひとつ増えた。次の日も、次の日もその人


は食べに来た。そんなある日私は午前中に不動産屋に


行くことにした。出来れば安くて、広い所がいい。で


もどの物件も高い。私はもう少しすき家のバイトを頑


張らなきゃいけなさそうだった。不動産屋の帰り道、


工事をしていた。ガードマンに『こちらへ』と、誘導


されるがままに歩いてると、どこかで見た顔の人がい


る。良く見てみるとすき家のお客さんの中年男だっ


た!「こんな所で会うなんて…」私は口にしていた。


あ、そうだ!!私は走った、とにかく走った、実家ま


で走った。母と妹は『どうしたの⁉️』という顔してい


る。私は「のり弁大盛!」と、お金を払って、また走


った。足が痛い。 やっと戻った頃、中年男性は昼休


み中だった。缶コーヒーにハイライト。私は近寄っ


た。「あの、良かったらこれ食べて下さい!毒とか入


ってませんから!」それだけ言うと私はその場を後に


した。その日も私はすき家の日だった。来るか楽しみ


にしていたけど、来なかった。翌日も来なかった。そ


んな中、中年男性がギャバ嬢風の女性と歩いてる所を


見てしまった。なんだかショックだった。硬派なイメ


ージだったけれど、所詮、感覚が普通の男性と同じこ


とに。私はその日、駅前のゲームセンターへ行って、


パンチングマシンをやってみた。素直に手が痛いだけ


だった。シフトを多くしてもらった。一人暮らしに向


けてのことだ。最近あの人が食べに来ない。今日もダ


メか…と諦めた時だった。中年男性がお店に入ってき


た。席に座らないで、私を呼んで紙袋を渡してきた。


男は『あとで開いて』とだけ言って、ポッケに手を入


れながら出て行った。私は休憩時間にその袋を開け


た。のり弁が入っていた。しかも私の実家ののり弁 


だった。私は嬉しいんだか、悲しいんだか解らす涙し


て食べた。初めて実家ののり弁をちゃんと食べた。




「美味しいじゃん…」

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恋するのり弁 寅次郎 @jkrowling

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