第11話

 最近の朝は暖房をつけることから始まる。布団に懐いたまま腕だけを出してエアコンのスイッチを入れると、そのまましばらく寝転んだままぼんやりとする。つい二度寝してしまうこともあるが、今日はごろごろしたあとすっきりと目を覚ますことができた。

 パジャマの上から厚手のカーディガンを羽織り、ぬくもった部屋でぱたぱたとスリッパの音を響かせながら朝食の準備をした。

 朝食を終え、身支度を済ませると軽く掃除をする。そのあと、スマホを確認するのが誉のここのところの日課だ。以前杜和から夜にメッセージが来ていたのを、翌日の昼前まで気づかなかったことがあり、それからはそうしている。まあ、それでも忘れることがあるのだけれど。

 杜和はそんな誉とは違い、比較的すぐに返事をくれる。けれどこの日ばかりは違った。今日の訓練について問うたメッセージへの返信が、いくら待っても来ないのだ。


(どうしたんだろう……杜和さん)


 気になってしまい何度も何度もスマホの電源をつけたり消したりを繰り返してしまう。メッセージアプリを確認してみるが既読すらつかずいっそう不安に襲われる。

 彼と知り合ってから、こんなことは初めてだ。なにかしてしまったのだろうか、いや、それならきっと直接言ってくれるはずだ。もしかして杜和になにかあった……? 誉は胃の辺りが竦むような気がした。

 結局、杜和から返事が来たのはそれから数時間が経った、昼前だった。


【杜和】忙しいから返信が遅れる。あとしばらく訓練につき合えない。


 どこか業務的な一文。杜和からの反応に安心したのは一瞬で、すぐに心配で胸がざわつく。わかりました、とだけ返信をするも既読はつかない。


(……大丈夫なのかな)


 忙しいならば誉のことなど気にせず仕事をしてほしいと思う。もちろん彼が無理をしない程度で。けれど誉は少しひっかかりを覚えていた。


(杜和さん、仕事セーブしてるって言ってたのに)


 それなのに彼が忙しいというほどの仕事が舞い込んでくるのだろうか。それとも仕事で忙しいわけではないのだろうか。


「……」


 いくら考えても答えなんて出るはずもなく、誉はため息をひとつこぼすとテーブルの上にスマホを置いた。置き時計を確認したあと、その隣の卓上カレンダーを手に取る。今日は十二月四日。寒いが天候には恵まれている。空には雲ひとつない快晴が広がっていて、折りたたみ傘も必要のないお出かけ日和だ。

 そんな一日だが、誉の予定はすっかり空っぽ。しばらくはこんな日が続くのだろう。

 かつては当たり前だったそんな日常が、いまはひどく寂しい。けれどそれだけ杜和は誉にとって大きな存在なのだ。


(……なにもなければいいんだけど)


 いまの自分にできることは彼の無事を祈ることだけだ。誉はふたたびスマホに手を伸ばすとメッセージアプリを開く。そうして既読がついていないことを確認すると深くため息をついた。

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