後編


西日が照らす、教室の中でで私たちは唇を重ねていた。

私はキスをしたことを自覚するのに一瞬時間がかかった。

それも、相手に勝手にされて、自分が思い描いていたファースト・キスとは全く違っていた。


「やだっ!」


私は思わず鯨井を突き飛ばしてしまった。

鯨井は女たらしだ。クラスでも目立っていて派手でモテていて。だからきっと私で遊んでいるに決まってる。


「気安くキスなんてしないでよ、そんな気なんてないんでしょ!?」


私の大切なファースト・キス。

いつか好きな人とするんだろうって思っていのに。


「ファースト・キスだったのに・・・」


最悪だ。

鯨井は女絡みでいい噂を聞かなかった。

他校に彼女がいるとか、ママ活してるとか、校内でエッチなことしてるとか。

だから誰とだってキスできちゃうんでしょ?


私、そんな人にキスされたくなかった。


私には恋愛なんて無縁で、彼氏なんでできたこともなくて、手も繋いだこともないのに。

それでも恋に憧れはあった。漫画やドラマで見るような、甘くて優しい恋がしたいって思っていた。

いつかは私にも素敵な人ができたらって。

もうだめだ。涙が出そう。

いや、もう涙が溢れて止まらなかった。

私は両手で顔を覆った。


「小林さん」


突き飛ばした鯨井が近づいていた。

そして、私の両手を顔から離した。

私を真っ直ぐに見つめる瞳から、私は彼から目を逸らした。


「小林さんは俺が嫌いかもしれないけど俺はずっと好きだった。

西日に当たる小林さんが綺麗で可愛すぎて我慢できなかった・・・。ごめん。

でも、俺だって誰にでもキスできるわけじゃないから。」


私は逸らした目を鯨井に向けた。

鯨井の瞳はまだ真剣に私を見ていた。

私はやっぱりまだ身動きが取れなくて、なんと返していいかわからなくて戸惑っていた。


「いきなりごめんね、早く終わらせて帰ろっか。」


私の戸惑いに気づいた鯨井が、そう言って苦笑いした。

私は心ここに在らず、といった感じで無心で作業してさっさと終わらせた。

終わったころに先生も戻ってきて私たちは無言で帰路についた。

それから、駅まで2人で黙って歩いたところで、鯨井が口を開いた。


「小林さん、俺諦めてないからね。」


その声は温かくて優しい。

噂に聞くようなチャラチャラした彼はいなかった。


「俺の事、好きになって?」


私はふわふわとしたような、胸が締め付けられるような変な感じがした。

それなのに安心できる心地よい声。

どうして・・・・?


「キスの責任とるから。」



突然で急展開すぎる私のラブ・ストーリー。

恋の始まりは居残りから。





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居残りは恋の始まり 大路まりさ @tksknyttrp

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