居残りは恋の始まり

大路まりさ

前編



「はぁ、なんでこうなるのよ」



私、小林貴音こばやしたかねは絶賛放課後居残り中。

なぜなら、私が授業中にスマートフォンでゲームをしていたからである。


仕方がない。なぜなら授業があまりにも退屈で、その上ソーシャルゲームにはイベントがつきもの。

このイベントを終わらせなければ今後のゲームの進み具合に支障がでてしまう。


だからってこのご時世に居残りなんて。ははは、笑えない。


笑えないけど一応親にメールをしてみた。後から学校からスマホのことを連絡されて家で怒られるより、先手を打っておこうと思ったからた。

うちの親がモンスターペアレンツだったら今頃「パワハラだ」「体罰だ」と学校に苦情の電話をいれてもおかしくは無いが、微妙に昭和の空気感の残る世代なもんで「授業中に携帯いじってるあんたが悪いに決まってるでしょ」と突っぱねられてしまった。


教室に山積みにされた授業で使うであろうプリント。

それをホッチキスでまとめろってことらしい。


こんなの一人で終わるわけが無い。

心のなかでぶつぶつとつぶやく。


そのとき、がらっとドアがあいた。



「やっぱり終わってなかったか。助っ人連れてきたから後少しがんばってくれる?」



声の主は居残りを命じた先生だった。

先生は先生で何だかげっそりとしていた。きっと本当に手が足りなくてたまたま私がスマホを触っていたのを脅しに、少しでも仕事を減らしたかったのだろう。


そして傍らには誰かいた。


・・・・クラスメイトの鯨井雅治(くじらいまさはる)だった。


校内有数の女たらしで食った女はかず知れず・・・と噂のあるチャラい男だった。

私はそういう人がとても苦手だった。


私はどちらかと言う引っ込み思案の口下手で、クラスの一軍みたいな人たちが苦手だった。

鯨井がこっちに歩み寄ってくる。



「うわー、こんな量を一人にやらせてたの?あいつ。俺がプリントまとめるから小林さんはホッチキスでとめてくれる?」


「う、うん」



あれ?意外に話しやすい。

そして協力的だ。

一人のときよりすっごく早く進む。

窓から入る西日が、鯨井のブリーチした髪を照らす。思わず見とれてしまう。


わあ・・・キラキラ・・・。


「・・・小林さん?どうかしたか??」


「ううん、なんでもないよ」


見とれていたことがバレてしまったようで、急に恥ずかしくなってしまった。


「そう?てかさあ、小林さんなんで先生手伝ってるの?ボランティア?」


「スマホバレたから。」


「あはは、まじか!小林さん真面目そうなのに。気づかなかったや!」


鯨井は爆笑している。

私は恥ずかしくなって下を向いて作業を進める。


「小林さん」


「何よ?」


私は呼びかけられて、顔を上げるといつの間にか鯨井がすぐ隣にいた。

私はびっくりして身動きが取れなかった。

私が驚いている間にくっとあごが上げられてお互いの唇が触れ合っていた。

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