episode.49 最強配信者、帰還



「トオルくん……ケンシンちゃん」


 結衣はトオルの杉並区の自宅で配信を見守っていた。トオルの画面がオフラインになっても視聴者のコメントは続いている。


<Truくんまじで?>

<生きててくれよ>

<これ、やめたかっただけ?>

<みんなフィクション信じすぎ>

<大丈夫、Truは戻ってくるよ>

<やけにリアルな異世界、好きだったぜ>

<まじなんかな>


 結衣はぎゅっとトオルのパーカーを抱きしめて涙を拭った。彼女だけは異世界に行っていることを知っていたし、彼が配信で「最後になるかも」と言ったのが命の危機にあることだとわかっていたからだ。


 そんな時、結衣のスマホが鳴った。


「トオルくん? って……誰?」


 スマホに表示されていたのは03から始まる番号で見覚えのないものだった。一度、無視したものの何度もかかってくるので結衣は3回目の着信で応答した。


「もしもし?」


「あぁ、結衣ちゃん!」


「トオルくん! 無事なの!」


「無事! スマホはあっちに置きっぱだから連絡取れないけど……あの〜今前のアパートにいるんだけどさ結衣ちゃん。迎えにきてくれない?」


「うんっ! すぐに行くね!」


 結衣は涙を拭いてちょっとだけメイクをすると、タクシーを呼んでトオルのいるアパートまで向かうのだった。



***


「トオルくん!」


 結衣はタクシーを降りて、アパートの前に立っていたトオルを見つけるとひと目も憚らず抱きついて大泣きをした。トオルはおどおどしつつも彼女の背中をさすった。


「心配かけてごめん」


「帰ってきてくれて……よかった」


「ケンシンもいるぜぇ」


「なーごっ」


 結衣はトオルから離れると足元にいたケンシンを抱き上げた。ケンシンは顔を結衣の頬にすりつけて掠れた声で鳴く。


「さあさ、二人ともお茶が入りましたよ」


 感動の再会もそこそこに二人は部屋へと入っていくのだった。


***



「そんなわけで、家に帰りたいって願ったらここについちゃったんだよねぇ」


 トオルが以前住んでいたアパートの一室、と言っても大家の太田さんの部屋で2人はお茶を飲んでいる。ケンシンは結衣の膝の上で丸くなり寝息を立てていた。


「そうよ、串野さんが空き部屋のお掃除をしていたら急に現れたもんですから心臓がとまるかと思ったわ」


 太田さんはキッチンから茶菓子を持って良いタイミングで戻ってくる。このタイミングでトオルは異世界の話をするのをやめた。


「すみません、すみません……」


 トオルは「家に帰りたい」と願った時ついつい長年住んでいた方の家を想像してしまったのだ。まだ空き部屋だったからよかったものの、もしも新しい住人がいれば不法侵入で逮捕されるところであった。


「忘れ物をしたら私に声をかけてねぇ。けれど久しぶりに会えてうれしいわぁ。そうそう、新しいおうちはどうかしら?」


「どっちもすごく過ごしやすくて……週末の葉山なんて特に」


 トオルの言葉に太田さんは嬉しそうに頷いた。


「そうだ、トオルくん。WowTubeの登録者数。100万人突破してるんだよ。本当に……もう」


 結衣が泣くので太田さんも困り顔、トオルも嬉しさ半分結衣を心配させた申し訳なさ半分で複雑な気持ちだった。けれど、結衣がこれほどにも自分を思ってくれていることがわかって安心した気持ちにもなった。


「結衣ちゃん、しばらくは葉山の方で休んでさ。今度二人で食べ歩き配信でもしようぜぇ。鎌倉とか、いいデートスポットらしくて俺行ってみたいんだよなぁ」


「今、デートって?」


「そ、まぁそういうこと」


 トオルは恥ずかしそうに赤面しながら後頭部を掻いた。結衣は真っ赤になったまま小さく頷く。


「まぁ、若い人はいいねぇ。おばあちゃんうらやましいわぁ」


 ポッと赤くなった二人を見て太田さんが茶化すと自然と部屋の中が笑いに包まれる。寝入っていたケンシンが不満そうにムーと鳴いて体をぐっと伸ばした。



第一部 はじめての異世界編 おわり


***  あとがき  ***


お読みいただきありがとうございました!

ここでトオルの冒険もひと段落・・・シリアスな章もついてきてくださりありがとうございます。


現在2部開始に向けて絶賛執筆中! 書籍化はまだ決まっておりません!(泣)


作者のモチベーションが上がりますので、広告下の☆で評価するの+ボタンからぽちっと3回よろしくお願いします。





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