episode.41 偏屈魔女と食べ歩き
道を行き交う生き物は人間だけではなく顔だけ猫の亜人や耳の尖った人間ぽい生き物、小人やオーガ族と言われるようなイカつくてでかい生き物。
馬車を引いているのは馬だったり、馬みたいなモンスターだったりもする。観光客のような種族もいれば、ささっと通り過ぎる住民らしき種族たちもそれぞれだ。
「ゴブリン用の美味しい岩塩だよ〜!」
「エルフの村で取れた美味しいトマト!」
「ウイハのお魚はいかがかな〜?」
「あっ、すみません。ちょっと急いでたもんで!」
トオルにぶつかったのはトカゲ頭の種族で爽やかに3本の指が生えた手を上げるとそそくさと去っていく。
「ここはアルファス村。いろんな種族が行き交う種族のるつぼ的な?」
ユリーヌは誰もが種族や見た目を気にしない光景に驚いているようだった。よくわからない単眼の獣を肩に乗っけているオーガ族や明らかに悪魔っぽい黒フードのカップルにも誰も興味を示さないどころか、売り子は誰にでも声をかける。
「お姉さん! コグー串どうだい? ってあら! 不思議な黒い箱もったお兄ちゃんじゃないかい!」
「お、どもっす」
「彼女かい? その見た目……黒い猫にローブ。魔女かい? お兄さん、やるじゃない! こんな美人さん。ほら、猫ちゃんたちの分はサービスだよ」
クマ耳の獣人おばちゃんはケンシンと不死猫に焼く前のコグー肉を投げて寄越した。二匹は器用にキャッチするとうまそうに食う。
「あざっす。コグーの串2つ。あと……この辺で部屋貸しとかってあります? この魔女さん住める場所を探してて……」
「まいどあり。コグー串2本ね。あんたが行った質屋の近くに空き家を売り買いしてるお店があるよ。魔女なら魔法薬や薬草のしわけで引っ張りだこだし……すぐに借りれるんじゃないかい?」
トオルは二人分支払うと一本、ユリーヌに渡す。
「うんめぇ……やっぱコグーやばいわ」
ユリーヌも一口。険しい顔をしていた彼女もあまりのうまさに顔をがほころんだ。
「そこのお兄さん! 新しく売り始めたシュガーパン! 焼きたてだよ! 食べてったよ!」
「お、新しい露店だ」
トオルが以前きたときにはなかった露店。細長くスティック状になったパンにバターと砂糖をたっぷりと塗って炙った代物で、砂糖の焦げる甘い香りが広がる。
それに釣られたのはトオルではなくユリーヌだった。
「あの、これって……」
「魔法てん菜を使った不思議なシュガーだよ! 食べればエネルギーチャージ! 猫ちゃんにはバターたっぷりのスティックをどうぞ!」
「にゃむ、うみゃい」
「トオル! これうまいぞ!」
白と黒の猫がうまそうにパンの切れ端を貪るとトオルとユリーヌは同時に言った。
「一本ください!」
二人は顔を見合わせると少し恥ずかしくなってはにかんだ。受け取ったスティックトーストはキャラメリゼされてカリッカリの食感と甘い砂糖、それからバターのコクで非常に濃厚。砂糖のじゃりじゃりした食感も良いアクセントになってやみつきになる一品だった。
「魔力がみなぎる……」
「さて、ユリーヌさん。俺は貴女をここに連れてきたわけだけど……呪い、解いてくれますよね?」
ユリーヌは口の周りの砂糖を袖で拭うと大きく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます