episode.32 迷惑系WowTuber



「トオルくん! これみて!」


 ケンシンがいなくなって2日後、いまだに捜索を続けるトオルの元にやってきたのは結衣だった。


「結衣ちゃん」


「ネットでみんなが調べてくれたんだけど……このWowTuberのここに映ってるのケンシンくんじゃない?」


【動物救出 ウォーリー正義 マサトチャンネル】


 そのチャンネルはまだ登録者は100人にも満たないもので、SNSもフォロワーがほぼいないようなもので、ネット上では話題になっていなかった。


「これって……この人捨て猫とかを拾ってんじゃなくて?」


 一見、サムネイルを見る限り「捨て猫救出」「殺処分寸前で救助しました」といっったテキストと汚れた子猫が写っているようなものが多い。だが、結衣は最新の動画をタップして展開する。


 そこには顔を隠した状態の男が「虐待されている疑いのある動物を救出します。ただ、虐待犯にバレる可能性があるのでモザイクをかけます」とオープニングで話した後、数件モザイクのかかった家に入り込み猫や犬を連れ去る様子が収められていた。


「これ、絶対俺の家じゃんか。こんな犯罪行為どうしてWowTubeはBANしないんだよ」


 結衣は小さくため息をつくと


「多分、全くバズってないからまだ見つかってないだけだと思う。けど、この話題がトオルくんの掲示板で上がってから、今は炎上中。多分、各所に通報も行っていると思う」


 トオルは三井に電話でこのことを伝えると三井も「今この警察署も電話が殺到している」と忙しそうに返答した。どうやら、トオルの住居について彼のファンたちはとっくに特定していたらしい。

 トオルは改めて自分のネットリテラシーの低さを反省しつつ、今回は良い方に転んでくれそうでちょっとだけ感謝をした。


「こいつ、バズりたくて海外の過激な活動家の真似してるのか……」


「うん、海外でも超過激派。盗まれたワンちゃんや猫ちゃんが大好きな飼い主さんに会えないと思うと胸が裂かれる思いだよ。ケンシンくん、大丈夫かな」


 ぽちぽちとトオルがネット掲示板を見ていると、マサトチャンネルの個人情報がこれでもかと並べられている。ネットに顔や家を出すというのは将来こういうふうになる可能性もあるということだ。


「許せん……」


 トオルは沸々とした怒りを感じつつ、結衣の手前冷静に振る舞う。


「これだけ証拠が残ってれば多分、すぐに警察が捕まえてくれるよ。トオルくん、電話じゃない?」


 机の上で光っているスマホには見覚えのある電話番号、三井だった。


「三井さんから折り返し?」


「出てみなよ、捕まったかも!」


「もしもし、三井さん?」


「串野さん、今どこにいます?」


「家で友人と話してましたけど……」


「今すぐ、鍵をかけて。その場所を動かないでください」


「えっ?」


 電話越しに鳴るサイレン、三井の声は危機迫っていた。トオルはまだ状況を飲み込めない。


「マサトチャンネルこと正木ヒロトに事情を伺いに行ったところ、不在。SNSを確認したら……いいですか鍵をかけて。俺たちが着くまでじっとしててください」



——ピンポン


 三井との電話が終わった後、すぐにチャイムが鳴った。

 激しく叩かれるドア。


 結衣は怖がってトオルにしがみつくと後ろに隠れた。


「なんだよ……なんでうちにマサトチャンネルが?」


「トオルくん、これ……あいつリスラブで生配信してる」



【リスラブ生配信中! 虐待疑惑のWowTuberに凸配信! バズった記念!】


 炎上していることを「バズった」と勘違いした彼はさらにトオルのリスナーを集めるために配信を組んだのだ。


「ちょっと! Truチャンネルさーん! 猫に魚をあげちゃった理由をおしえてくださーい! 子猫のメインクーンを海外に連れ回している理由はー?」


 トオルはあいつを1発殴ってやろうかとか、配信を付け替えしてやろうとかそんなふうに考えたが、隣で怯えている結衣を見てトオルは相手と同じ土俵に立ってはダメだと冷静になることができた。


「結衣ちゃん、巻き込んでごめん」


 男性の怒声に怯えている結衣に謝罪をして、そっと抱きついていた彼女の髪をぎこちなく撫でた。

 この世界では武力はどんなに正しくても罪になる。だとすればトオルにできることは、相手と同じ土俵に立たず、警察の到着を待つことだけだった。


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