episode.33 迷惑系の末路


「Truチャンネルさーん! 出てきてくださいよ〜! 猫ちゃん虐待してて出頭しないんですか〜!」


 トオルは相手に合わせちゃダメだとわかってじっと堪える。物音を立てないようにじっと結衣の手を握っていた。

 それでも相手のボルテージは上がっていき、玄関のドアをボコボコと殴ったり蹴ったり。


「ほらTruのファンもみてみろよ! これがお前らの推してる配信者の実態だぞ! はぁ? なんで俺が叩かれるわけ? 俺は可哀想な犬や猫を救出して回ってるんだ! こいつなんかよりバズって称賛されるべきだろ! 出頭しろ!」


 トオルのスマホに写っている彼の生配信は大荒れ。


<は? ケンシン返せや>

<飼い主から奪うとかそっちの方がよっぽど虐待だわ>

<他にも被害を受けてる人がいるってことだよね>

<知ってる、キャンプ系配信者の犬も行方不明ってこいつの仕業らしいよ>

<こいつ、金もないフリーターなのにどうやって?>

<盲信的なファンがパトロンして餌代とかは出してるらしい>

<そのファンも有罪だろ>

<Tru、戦わず警察に任せて捕まえろ>

<こいつのSNS全部動物虐待と犯罪行為の流布で通報、永久BANにしよう>



「出頭しろ! Truチャンネル!」


「出頭するのはお前だ。政元マサト。どうして警察が来たかわかるな?」


 三井の野太い声がしてマサトの甲高い声が一旦止む。


「任意ならいきませんよ。俺、別に悪いことしてないんで! むしろこの人を逮捕してくださいよ! 動物愛護なんちゃらで!」


「配信をやめなさい。今からお前に対する逮捕状を読み上げる。それが流れたらお前も困るだろう」


「はぁ? 逮捕?」


「そうだ。窃盗、住居侵入」


「証拠は?」


 マサトは生意気にも三井に食ってかかる。


「先ほど、お前の家から出たお前の指紋と数々の動物窃盗事件の指紋が一致。その上、お前の部屋から見つかったモザイク処理前のデータが被害者たちの自宅映像だと判明。その上、ここのお宅に飼われている猫とお前の自宅のケージにいた猫が一致。それから、他の犬も猫もな。劣悪な環境で餌もほとんど与えず、弱っている個体もいたので動物愛護関連でも起訴。もちろん、その動物たちは元々は盗んだ相手の所有物なので器物破損にもなるぞ」


 トオルにはほとんど呪文のようで何を言っているかわからなかったが、どうやらいくつも犯罪を重ねていたらしいことはわかった。


「おい、スマホ返せ!」


 三井は全ての罪状を言い終えるとマサトのスマホを取り上げて配信を終了する。そのまま「公務執行妨害で現行犯逮捕だ」と冷静にいう。

 それを合図に複数人の男性警察官が怒声をあげて彼を取り押さえた。


 ぴんぽん穴から一部始終を除いていたトオルは、マサルがパトカーに連行されていくのを確認してからドアを開け、待っていた三井に礼を言った。


「あぁ、串野さん。今、猫ちゃんは鑑識が証拠保全のためにお預かりしていますよ」


(猫ちゃん……)


(猫ちゃん)


 トオルと結衣の中でデカくてゴリラのような三井が「猫ちゃん」と言ったのが頭から離れなくなってしまった。

 三井は大の猫好きある。


「はい、あの怪我や病気は?」


「串野さんの猫ちゃんは盗まれて日が浅いのでそこまで。ただ、他にも見つかった犬や猫はかなり衰弱していました。余罪も含めて調査中です。明日、署にいらしてください」


 ケンシンが無事なことが確認でき、トオルと結衣は一安心してため息をついた。トオルはケンシンをこれから配信に出すのかどうか、そういう心配と共にこの場所を引っ越さないといけないと考えていた。


 この騒動で少なからず大家の太田さんにも心労をかけてはいたし、何よりもセキュリティーなんてあってないようなボロアパートだったためこのような事件に発展してしてしまった可能性も否めなかったからだ。


「ありがとうございます。明日、ケンシンを迎えにいきます。それから……ご迷惑おかけしました」


「串野さんが謝ることでは……」


「いや、俺も住所がわかるような配信をしてしまっていたし。それに……あいつのいうように猫が食っちゃいけないもん食わせたり連れ回したのは本当なので」


 三井はトオルの肩にボンと大きな手を乗せた。


「うちの猫もマグロが大好きでね。あまり体には良くないとわかってるけど給料日には一緒に……ほんのちょびっと食わせるんだが、一番いい顔をするんだなこれが。配信に載せるのは確かにおすすめはできないが、何が猫ちゃんたちにとって幸せなのか。それは串野さんとケンシンくんで決めることなんじゃないかな」


 三井はそういうと敬礼をしたあと、白黒じゃない覆面パトカーに乗り込んで、帰っていった。


「トオルくん、お疲れ様」


「結衣ちゃん。ありがとう」


 トオルは自分の配信のためにケンシンに尽くすのではなく、ケンシンの幸せのために配信をしようと深く反省し心に誓うのだった。

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