episode.24 収益と焼肉デート



【通知:WowTubeよりお知らせ】


「ん? メールだ」


 トオルは次の配信に向けて各種充電をしたり準備を進めていた。海の上ということで海パンだったりタオルだったり、ちょっとしたバカンス配信になったらいいなという淡い気持ちも混みで。


 そんな中、トオルのスマホにメールの通知が来て彼は思い出した。


「そうだ、バズった分の収益……今日入るじゃん!」


 スマホのアプリを開いて、銀行口座を確認する。いつもいつも給料日前は大変なことになっているトオルの口座であったが、今は違う。


【WowTubeからの入金 7,650,800円】

【リスニングラブからの入金 1,500,976円】


「ほぼ1千万⁈ やべぇ〜! WowTubeドリームえぐぅぅぅぅ!!!!」


 トオルはまだ気がついていないが、これはバズってすぐ、つまりは最初の動画のみの収益なので来月はもっととんでもないことになるのである。

 現在もトオルの動画は全てが再生され続けているし、WowTubeもリスラブも彼が配信枠をひらけば投げ銭は常に何十万も投げられていた。

 

「これは結衣ちゃんに電話っしょ!」


 トオルはスマホでそのまま結衣に通話をかける。


「もしもし? 結衣ちゃん?」


「と、と、トオルくん?」


 一方で、結衣は大学のテスト期間中。自分の本来の学力よりもレベルの低い大学・学科に通っているため特に問題はないが、彼女はトオルから通話がかかってきたという事実によだれを垂らす。

 通話だと表情の管理をしなくて良いからか結衣はデレデレと目尻が下がっていく。


「結衣ちゃん! 今日、ご飯に行きませんか?!」


「はぁっ……トオルくんとご飯?」


「あれ、そっかテストだっけ、ごめん。その収益が入ったからさ、この前の電気ガス代返すのも兼ねてご飯とかどうかなぁって思ったんだけど」


「イきます!」


「結衣ちゃん、大丈夫?」


「大丈夫だよぉ……今からトオルくんのお家にいくね! お店はどこがいい? 私が用意しようか?」


「いいのいいの! 今日はぜ〜んぶ俺に任せてよ」


「ト、トオルくんがしてくれるの⁈ 嬉しいっ、おしゃれしていくね!」


 結衣の情緒不安定を心配しつつトオルは自分がやっと可愛い女の子に高いご飯をご馳走できる嬉しさで心がいっぱいだった。


「ナー?」


「ケンシン、帰りにめっちゃいいおやつ買ってきてやるからなぁ」


 待ってるぞ、と返事でもするように白い尻尾をブンと振って彼はキャットタワーの上へと登っていく。


「やっぱ、日本語通じるんだよなぁ」


***


「結衣ちゃん、今日も今日とてお綺麗ですな!」


 トオルの部屋にやってきた結衣はいつも以上にめかしこんでいた。いつもはストレートの黒髪は上品にゆるいカールをしてあってポニーテールに。耳元の後毛まで丁寧にカールしていて、揺れる銀色のイヤリングが妙に色気を放っている。


「そうかな……?」


 いつもは膝丈のスカートワンピースだけれど、今日は少し膝が出る程度のミニスカートワンピース。靴も可愛らしいピンクのハイヒール。


「けど、街なんて歩いたらまた女匂わせに……」


「結衣ちゃん、俺は最初からそんな心配してないし万が一写真撮られても俺は大丈夫。結衣ちゃんが心配なだけ、けどそんな心配いらないのだよ。ドアトゥートアだからね!」


「トオルくん、そんなに考えてくれたの? ありがとう」


 結衣は目を輝かせ、トオルの気遣いに喜んだ反面、自分自身がわがままを言っていたことに気がついた。


「俺の方があんまりおしゃれじゃないけど、今日はいいお店を予約したので! 結衣ちゃん、ジャジャ苑だよ!」


「ジャジャ苑ってあの高級焼肉? いいの? 高いのに」


「いいのいいの、じゃあタクシー呼んでるし行くっしょ!」


 東京六本木にある高級焼肉店に到着した二人は「特上コース」を予約済み、別途トオルは好きなだけ肉を注文した。


「すごい、全室個室なんだね。トオルくん、このユッケ取り分けるね」


 結衣は目の前で美味しそうに肉寿司を頬張るトオルに届いたユッケを取り分ける。厳選された牛肉の上にとろける卵の黄身、糸唐辛子も一緒に混ぜ、付属の胡麻油をたらり。


「うわ〜結衣ちゃんありがとう」


「いいの、美味しく食べるトオルくんをみるのが何よりも幸せなんだもん」


 結衣の目の前のトオルは口いっぱいに美味しい肉を頬張り、目を輝かせている。


(本当は私が奢ってあげたかったなぁ……トオルくんかわいいなぁ、大好きだなぁ)


 自然と結衣の表情はほころぶ。


「あれ、結衣ちゃん? よだれ垂れてるよ? お肉食べな……?」


「はっ! お、お、お腹減ってたんだ! いただくね! いただきます!」


 結衣は目の前の肉寿司を引っ掴んで口に入れる。ほろほろ溶ける甘い油の肉、彼女も食べたことのない美味しさで頬が落ちそうになる。


「おいひい……」


「そうそう、このあと来るコースのお肉は店員さんが焼いてくれるらしい。結衣ちゃん、最高だね」


「うんっ! トオルくん、今日はありがとう」


「いやいや、これまで死ぬほどお世話になっていたし。こんくらいはさせてよ。テスト終わったらまた食事付き合ってくれると嬉しいかも」


 トオルからの誘いに失禁しそうになりつつ結衣は笑顔で「もちろん!」と答えた。そのタイミングでシャトーブリアンを持った店員さんが部屋に入ってきて肉を焼き出した。

 トオルは目の前の最高級の肉の塊に心を奪われる。


「すみません、ご飯おかわりもらってもいいですか?」


「はい、ありがとうございます」


 店員さんは手際よく肉を焼き終えると、トオルの白米を取りに戻る。白米が届く前にトオルはシャトーブリアンに塩を振りかけて一口。

 旨味、甘味、塩っけのバランスがよく口の中に入れたら溶けてしまう。そしてそのうまさはもとより、1つ5万円という値段が彼の自尊心を強く満たした。


「こちら、ご飯大でございます。お次は炙りロース。こちらは半面をこのように10秒網において……この状態でお召し上がりください、はい」


 トオル、結衣と交互に皿に乗せてもらい二人は炙りロースを口に入れる。


「うんまぁ〜!」









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