5 異世界食べ歩き配信 海の上の村編

episode.23 結衣のきもちと世界地図


「私……好きな配信者の配信に女が匂わされるのが地雷なの!」


 要塞の国・賢者の村から帰ってきた途端、結衣はキンキン声をあげた。それを心配したのかケンシンがリュックから出てきて結衣の膝に乗る。


「どゆこと?」


「だから、今回の食べ歩き配信で私のことバレちゃったというか、カメラマンが女の子だってわかっちゃったじゃん?」


 食堂の案内係だった竜人のお姉さんが撮影中に「お嬢さんは食べないの?」とカメラを抱えていた結衣に声をかけたのだ。その上、配信が始まった時にトオルがカメラマンについてあまり詳しく説明しなかったこともあって、配信中に「女のカメラマンを隠していた」「焦っていた」など憶測が広がってしまったのだ。


 現在もZでは「Truチャンネル カメラマン」がトレンドに入っている。


「まぁでも、別に俺は気にしてないよ……?」


「私が気にする。だってだって地雷なんだもん!」


 地雷というのは、コンテンツにおける個人が受け入れられない要素を意味している。結衣の場合は「好きな配信者が女を匂わす」である。


「でも〜、それってぶっちゃけ結衣ちゃんじゃん? 自分自身もダメなの?」


「私、私が許せないわ! だって、Truくんの配信は男の子がゆるっと楽しく語るのが醍醐味でしょう? なのに、女が入ってきて……なんて絶対ダメなのっ! ごめんなさい、私異世界に行ってみたかったっていう自分の欲望でTruくんの配信をダメにしちゃった」


 結衣が涙ぐむのでトオルは何がなんだかわからないままティッシュを探す。


「けど、俺は別に結衣ちゃんと異世界に行けて楽しかったよ? それに配信だって別に悪いコメントばっかりじゃないし」


「でも、私が嫌なの……。Truくんの今までの配信が大好きなんだもん。仲良くなった途端、配信に女が入り込むとか激萎えじゃん。私としたことが……ぐすん」


「あぁ〜〜〜、泣かないで泣かないで! 俺もごめん、まじでごめん。配慮にたりなかった? かも?」


 美人に目の前で泣かれてパニックになったトオルはよくわからないけどとりあえず謝る。ケンシンは心配して結衣に体をぐりぐりと擦り付けしゃがれた声で「ナー」と繰り返し鳴く。


「トオルくん。私、これからは大好きなトオルくんの裏側を支えるように心がけるね。テストが終わったらまた連絡するね!」


「え? 結衣ちゃん?」


 何かを心に決めた様子の結衣はぐいぐいと涙を袖で拭うとトオルの手を握って何度か頷いてからさっさと部屋を出て行ってしまった。


 トオルはボーッと結衣がいた場所を眺めながらケンシンに


「なぁ、俺今もしかして大好きって言われた……?」


「ナーゴ」


***


 女神竜ヴァーネイラにもらった異世界の地図をテーブルに広げてみると、トオルはあることに気がついた。


「おいこれ、ほとんどこっちの地図とおんなじじゃねぇか!」


 トオルはスマホで世界地図を眺めながら、異世界の地図と見比べる。異世界の地図にはヴァーネイラが書いた国名が刻まれていて、一番最初に訪れた「アルファ村」はシンガポールにあたる場所にあった。


 エルフの村はスイスに当たる場所。要塞の国はバチカン市国という国がある場所とぴったりと一致していた。


「これ、結衣ちゃんがテスト終わったら一緒に考えてみよっと」


「ナー」


 ケンシンが異世界の地図の上に座るとドヤ顔でトオルを眺める。


「ヌッコ様が作業邪魔してきますっと」


 パシャリとスマホカメラで撮影して真っ白い美猫様。


「なぁケンシン。次はどんな場所がいいかなぁ。お前あっち出身だろ? なんかいい場所しらんか?」


「ナー、ナァーゴ!」


 ケンシンがペシペシと前足を地図に押し付ける。時折見えるピンク色の肉球に触りたい気持ちをおさえて、トオルはその指先を見つめた。

 

「海……? 太平洋か」


「グーナァー!」


 ケンシンが不満そうに鳴く。トオルは首を捻った。


「あ、こっちの地図でみると……あ。ワイハーじゃん! ハワイ! おおケンシンお前ハワイ行きたい系?」


「ナー!」


 トオルの頬にぐりぐりとおでこを擦り付けるケンシン、トオルは優しく背中からお尻までなでなでして毛並みを整えてやる。


「いいね、じゃあ次の食べ歩きはハワイのある場所……えっと、ヴァーネイラ様によると『ウイハの村』ですってよ! ヌッコ様、準備は良いか?」


「ナー!」


 トオルは先ほど撮ったケンシンの写真に「次の食べ歩きは海鮮?」と付け加えてZに投稿する。投稿して数秒でいいねが大量につき始めるが、トオルの頭には別の考えが浮かんでいた。


「なぁ、ケンシンお前日本語通じるよな?」


 ケンシンはさっきまでトオルと意思疎通を図っていたくせに、プイッとそっぽを向くとテーブルの上から降りて猫用トイレの方へと歩いて行ってしまった。


 


 

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