episode.19 大図書館と女神竜の加護


「竜人?」


 トオルと結衣が同時に声を上げると、賢者と名乗った女性は優しく口角をあげて、まぶかに被っていたフードをとった。


 彼女はエルフのような尖った耳に特徴的な赤い宝石が嵌め込まれた揺れるピアスをつけている。何よりも目を引くのは頭に生えたドラゴンの角だ。2本、それは堅そうな黒いツノが反り返って生えている。


「異国の人が見れば驚くでしょう。我々、竜人の多くはこの大図書館で賢者として生きているのです。私はアリス。この宿のマスターでございます」


 アリスはトオルの荷物を荷物入れに起き、テーブルに温かいハーブティーを淹れておいた。


「要塞の国ってここはそんなに危険な場所なのですか?」


 異世界人を見ても全く動じない結衣に驚きつつ、トオルも気になってアリスの返答を待った。


「えぇ、この要塞の国には全ての知識がございます。つまり、大図書館というなの知識の宝庫を我々竜人が守っているのです。知識はどんな武器よりも強く、恐ろしいもの。ですから、全ての種族の中で一番強いと呼ばれる我々竜人族が、要塞を築き守っているのです」


「あの〜、この辺で食べ歩きができるところとかってあったりしますか……? 僕は異国からやってきておりまして。こんなふうに各国の食べ物の記録を取っておりまして」


 アリスは不思議そうにトオルのスマホを覗き込んだ。そして、手に取るとなんだか羨ましそうに目をぎゅっと閉じる。


「アリス……さん?」


「すみません。私としたことが……このエルフの村のスープが美味しそうで……。そうですね、村のちょうど中央に食堂がありますよ。といっても、賢者たちの食事は結構変わっていまして……」


 アリスはトオルにスマホを返すとため息をついた。


「変わっている? どういうことですか?」


「ここに住む賢者たちは常に本を読んでいるんです。ですから、食事は片手で食べられるもの……つまりはパンに好きな食材を挟んで食べるんです。ですから、賢者様の食堂もパンと食材が並んでいるだけで温かいものはあまり」


「そっか、賢者さんたちはみんなずっと何かしらの研究を? それなら片手で本を読みながら食べられるものが良いですよね」


 結衣の補足にアリスは申し訳なさそうに


「それに竜人は不老不死なのであまり食べ物に興味がないんです。興味がある竜人は要塞の外へ旅に出てしまうので……、それでもよければぜひ記録に取ってくださいね」


「あの〜、この辺に質屋とかってあります? 僕たちお金もってないので……」


「あぁ! それでしたら不要ですよ。何せ、この要塞内には旅行扉トラベルポーターでしか入れない仕組みになっています」


 旅行扉トラベルポーターという聞きなれない言葉にトオルは首を傾げた。一方で結衣は何か考えがあるのか手を挙げた。


「ということは、旅行扉トラベルポーターを使える人は限られているのですか?」


「えぇ、基本的には女神竜めがみりゅうヴァーネイラ様の加護を受けたものが使える魔法の一種にございます。これがあれば世界中どこへでもポートを開くことができます。まれに竜人以外でも、使命を持ちこの加護を授かる者がおりますが……あらそうだわ。それならヴァーネイラ様にお会いしていただかないと。ちょっと待っていてくださいね!」


 アリスは右手を前に突き出すとあのワープゾーンを作り出して消えてしまった。呆気に取られるトオル、結衣は納得が行くように何度も頷いていた。


「結衣ちゃん、この隙にいったん結衣ちゃんだけ帰る?」


「時にトオルくん。君は今のアリスさんの話を理解したかね?」


「おっ、急におじいちゃん口調……⁈」


「その様子じゃあ、理解してないねぇ」


「いや、そりゃ〜突然言われても? 結衣ちゃんは理解できたの?」


「できたよ」


「この通り! 教えてください!」


 トオルはパチンと手を合わせると軽快にお願いポーズ。結衣はドヤ顔で腕を組むと語り出した。


「まず、トオルくんが持っているワープの力は女神竜様の加護。そこまではわかるよね?」


「あぁ、なんとなくね」


「じゃあ、どうしてそれが異世界人であるトオルくんに付与されたのか……。それはね、きっとエルフ村で起きたことが関係していると思うのよ、ワトソンくん」


 口髭を撫でるような仕草もかわいい結衣に見惚れつつトオルも心の中がざわざわするように感じた。


「エルフ村ってことは、ダークオークの事件か」


「そう。つまりはこの世界で起きているさまざまな問題をトオルくんに解決させたくて女神竜様はトオルくんに加護を授けたんじゃないかなという推理なのよ」


 それは、いろんな異世界者では「勇者」とか「主人公」とか言われる存在である。トオルはワクワクしつつも少しだけプレッシャーを感じていた。なぜなら彼は……


——ネットでバズってウハウハしたい!


 それだけなのである。とはいってもエルフの村での出来事を考えるとトオルは自分が必要とされているのなら頑張ってみたいという気持ちも半分だ。星空の下で、ナターシャと過ごしたあの時間はトオルが生きてきた中で1番の喜びと生きる意味を感じたのだから。人に感謝される喜び、それを彼は知ってしまったのだ。


 一方で、結衣は自分が好きになった男がそういった特別な存在かもしれないというだけで顔が綻んでしまいそうだった。


——やっぱり、私の目に狂いはなかったわ! トオルくんはどっちの世界でも大活躍する人。あぁなんて格好いいの!!


「とはいっても、まぁその女神竜さまにお話聞いてみないとな」


「そうね」


 結衣は膝に座ったケンシンを撫でながら少し残念そうに言った。どうやらシャーロックばりの推理がお気に入りだったらしい。


 ぐわんと目の前の空間が歪んであのワープ空間が現れると、アリスが華麗に登場する。いつも転んでしまうトオルとは違ってまるで歩いて出てくるように彼女は舞い降りた。


「さぁ、お二人と一匹さん。ヴァーネイラ様がお待ちです。あなた方の到着を首をながーーーくして待っていたそうですよ」


 トオルと結衣はアリスの手を握り、ケンシンはトオルにぎゅっとしがみついた。そのまま全員でもう一度ワープ空間の中に入っていくのだった。


***あとがき***


お読みいただきありがとうございます! 次話 トオル最強だった⁈ お楽しみに〜!


 作者のモチベーションが上がりますので、少しでも面白いと思ったら、広告下の☆で評価するの+ボタンからぽちっと3回よろしくお願いします。


 書籍化目指しております。

ランキングあがれ〜!!!

ぜひ応援よろしくお願いします!!!!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る