episode.4 人生初、急上昇ランク入り



【Love沼:振り込んでおいたよ!電気代とガス代最近高いよね〜。ついでにお食事代も入れておいたからウーバールでも食べてね】


 翌朝、トオルが動画編集をスマホで終えた頃にDMが届いていた。持ち運びバッテリーが底をつきかけたころだったので彼はホッと一息ついた。

 

「やっぱ、持つべきものはLove沼さんですわ!」


 彼女は配信サイトでの閲覧者数0人の時に訪れた初見さんで現在も必ず配信にはきてくれるし、WowTubeの方も登録してトオルを応援してくれていた。

 無論、WowTubeの方は登録者が20人。まだ収益ができるほどチャンネル登録者数も再生数もないので放置状態だった。


【Tru チャンネル】


 トオルをもじった名前で「トルさん」とか「ティルさん」とか呼び方は色々ある。トオル本人は「トルさん」で通しているが……視聴者は多くはないので統一はされていなかった。


「さて、動画投稿っと。よーし、電気代とガス代の請求書は……っと、あったあった。コンビニ行くべ。コグーの串焼き肉にはやっぱりコーラっしょ!」


 トオルは家から10分のコンビニに行き、請求書の支払いと炭酸ジュースを購入した。

 あの最高にうまい串焼き肉が入った紙袋はリュックの中に入れてあるが大丈夫だろうかと帰り道は自然と早足になる。あのうまい肉をもう一度食いたい。そんなふうに思いながら彼は家に入った後、手も洗わないままリュックを開けた。

 中にある紙袋を引っつかんで、トオルは首を捻る。


「あれ——?」


 軽いのだ。

 紙袋の中にはコグーの串焼きが4本は入っていたはず。けれど、いま彼の左手の紙袋はまるで空みたいに軽いのである。


「まじかよ!」


 紙袋の中には何も入っていなかった。トオルはリュックの中を確認してみると残っていたコインも消えていて……どうやら、異世界からの、異世界にしかないものはこっちには持って来られないらしい。


「あっちにはスマホもカメラも持って行けるのに……。ちぇっ、異世界の珍品を博物館にでも売って荒稼ぎってわけにはいかないんかい、世知辛ぇ」


 浅はかな金稼ぎを封印されたトオルは落胆しつつも、Love沼さんからのDMについて思い出した。


「そうだ……ウーバールしよ」


 5000円分の電子マネーをチャージして、ウーバールというアプリで出前を頼む。とりあえず、ファストフードの一番安いセット。安くて早いのがよかったし、トオルは夜通し作業をしていたせいで腹が減って仕方がないのである。


「電気とガスが復活したら風呂入って寝るべ……」


 スマホの充電はあと40%。トオルはなんとかなりそうで深くため息をついた。



***


「こんちには〜、ウーバールです!」


「うひょ、女の子! 珍しい」


 ドアを開けると配達員の可愛らしい女の子がファーストフードの紙袋を持ってにっこりと微笑んでいた。黒髪をポニーテールにしてキャップを被り、自転車に乗っていたからか少し汗ばんでいる。


「ありがとうございます」


「はい、串野トオルさんですね。確かにお渡ししました〜」


「どうもです〜」


 ドアが閉まってからトオルは、配達員さんの可愛さにデレデレする。熱々の紙袋を一旦床に置いて、彼女にチップをあげようとアプリを開く。


恋沼結衣こいぬまゆい 推し活のためにウーバール始めました!】

【配達歴 1件】


「美人は名前まで可愛いのかよ〜。しかも、俺が初めての配達……? 俺もあぁいう子に推してもらえるようにならねば!」


 

<Wow Tube:あなたの動画が急上昇にランクインしました>


 可愛い配達員さんにチップを送った時、トオルのスマホに通知が流れた。


「は——?」


 慌てて、通知バーをタップすると当然のごとくWow Tubeのアプリが開く。まず、トオルはベルのマークに通知数を表す数字が「+999」でカンストしていたことに驚き、スマホを落っことしそうになった。


 彼は震える指で先ほど投稿した自分の動画を確認すべく、クリエイターページを開く。先ほど、トオルが投稿した「異世界食べ歩きVol.1」という動画。


【急上昇ランキング1位 再生数 10万回 高評価1万】


「まだ投稿して30分も経ってないぞ……!」


 更新するたび再生回数は万単位で増えていく。コメントも数百、チャンネル登録者も1万人を超えていた。


 

「ま、マジかよ……。異世界パワー、やっば……!」


 TruチャンネルはWow Tube内の急上昇ランキングに躍り出た。クオリティの高い全くの無名クリエイターがクオリティの高い異世界描写と美味しそうな食べ歩き動画を投稿したのだ、ネットが放っておくはずがない。

 すぐに、Z(つぶやきSNS)でも話題に上がり彼への通知アラームが止まらなくなった。


「うひょ〜! 俺、もしかしてトップインフルエンサーの仲間入りでは? って、あっ——」


 シュンと音をたててスマホがブラックアウトした。派手な通知によりいつもよりも激しく減力消費したので充電が切れてしまったのだ。

 トオルは急いで充電コードに差し込むも反応なし、まだ電気は復活していないようだった。


「とりあえず、飯食って寝るか……。寝よう、うん」


 彼はハンバーガーを齧り、歯磨きもしないまま眠りに着くのだった。








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