第11話 着せ替え人形じゃねぇ
「似合ってる似合ってる! やっぱり可愛い女の子は可愛い服を着てなんぼだよ」
「いや、僕が、こういうのは……」
「やっぱり服を着るならしっかり着てもらったほうが目に優しいよね。でも、ドキドキしてきたかな」
「逆効果じゃねぇか」
思いっきりツッコんでしまってから、僕はさっとカナから目線をそらした。
鏡やらクローゼットやらまでしっかり取り揃えられていたカナの家には、当然のように服がずらっと並んでいた。
こんなこともあろうかととか言いつつ、よりどりみどりの服装を片っ端から僕に着せてきたのだ。
薄いピンクのブラウスに黒っぽいミニスカートやら、水平さんの着てそうデザインの白い衣服やら。
そんな様子にあっけに取られていれば、僕はあれよあれよと服を着せ替えられていた。
今はTシャツとミニスカートの上に薄い透けた布が重なったようなものを着ていた。
本当に、どこでこんな知識を仕入れたのだろうか。
途中で体も拭かれてしまい、ある程度清潔な状態で僕は鏡の前に座らされていた。
「ほらほら、そんなにうつむいてたらせっかくの美少女が台無しだよ?」
「美少女言うな」
「ツッコミもキレがないねぇ。いやぁ、ニャオミちゃんもマイちゃんの二人と違って、メイちゃんはかなり男の子っぽいよね」
「それは……」
言いかけて口をつぐむ。
どうせ信じられる話ではないだろうし、話していいことかもわからない。
チラッと見えた自分の姿に僕の顔がますます赤くなるのがわかった。
「ふふふ。わたし的にはそうやって照れてる女の子ってますます辱めたくなるんだけどなぁ」
「やめろぉ! これ以上何するって言うんだ」
「別にまだ何をするかまでは言ってないけど?」
「辱めるとは言ってたじゃないか」
「辱めたくなるってだけだよ。実行するとは言ってないじゃん。何? もっとしてほしいの?」
「まるでもうすでに何かされているみたいに言うな」
「えー? こうやって可愛いお洋服を着て恥ずかしがってるのは演技だってこと?」
「いや、違う、けど」
「ふんふふん!」
楽しそうに笑うカナに、僕はまたしても黙らされてしまった。
いや、なんだ?
これならまだシーツを巻いている状態の方が、僕としては落ち着いていた。
風呂上がりにタオルを巻いているような感覚で、別段、胸が揺れる以外の違和感はなかった。
それに、ワンピースとかだって、ニャオミが着ているのを見ていたし、これもギリシャ的で男だって着そうな印象だ。まだまだ精神的には許容範囲だった。
最悪、マイちゃんが着ているようなサスペンダータイプのスカートとかなら、こっちの世界らしいと覚悟を決めて着られた気がする。
ただ、僕が今着ている服はそのどれとも違った。
どこから仕入れたのか、それは現代日本衣装のコスプレのようなファッションだった。
可愛いことは可愛いと思うが、絶対に異世界で異世界人が人に着せる服装じゃないはずだ。
そもそも、僕が着る服じゃない。なんだよこの透け透け。普通に肌が見えるよりなんかこう、エロいだろ。
恨めしい思いで、じっとりとカナをにらみつけると、カナは嬉しそうに微笑んだ。
「いやぁ。そんな顔されるともっといじめたくなっちゃうなぁ」
「やっぱり悪意があってこんな服着せたのか」
「悪意じゃないよ。趣味だよ」
「もっと最悪だよ」
「最悪とはひどいなぁ。手ずから作ったものを酷評されるのはこたえるんだよ?」
「い、言いすぎた。ごめん……」
「あっはは。なになに? 服に着せられて気まで弱くなっちゃったの?」
「お前なあ!」
「うるさいにゃ。さっきからにゃにをやってるんにゃよ」
更衣室のような一室で馬鹿騒ぎしていたせいか、苛立たしげなニャオミの声が響いてきた。
ひたひたと足音も近づいてくる。
ニャオミは肉によって完全に餌付けされて、カナの家に入っているのだ。無論、マイちゃんも一緒。
そんなことも忘れていた僕は、周りのことなど気にしないで大声を出してしまっていた。
「いや待てニャオミ。待つんだ」
「待つもにゃにもにゃいだろう。さっきからにゃにをしてるんにゃ」
そうして、部屋の戸を開けると、ニャオミは僕とカナを見て固まってしまった。
「どうしたんですにゃ?」
不思議そうに後からマイちゃんの声が続いた。
そうして、ニャオミの肩越しに僕の姿を捉えると、同じようにマイちゃんも固まってしまった。
それから、ニャオミはそーっと僕から目線をそらす。対して、マイちゃんは目を輝かせるようにしている。
「いや、シゲタカ。お前にそう言う趣味があったとは知らなかったにゃ。そりゃ、アタシに似せた方がいいとは思ったが、そういうつもりじゃにゃく、にゃ? でもまあ、いいと思うにゃよ?」
「おい。どんな勘違いしてるんだよ」
「にゃんですにゃそれ。にゃんにゃんですにゃ? 可愛いですにゃ!」
気まずそうにするニャオミとは対照的に、信仰対照だろうニャオミを押し除けて、マイちゃんが部屋へと入ってきた。
そんなマイちゃんに対して優しい表情でカナはうなずいた。
「これはね。戦闘装束だよ」
「嘘つけ」
「本当だよ」
恋人に対してか? と思いながらも衣服の強度を確かめると、やたらと丈夫な気はした。
布としては薄そうなのに、今の肉体の力を持ってしても、とても簡単にはちぎれそうにない。
「え、マジなの?」
「マジマジ。それに、そろそろいい頃合いだろうし、ちょっとばかし試してみようよメイちゃん」
「なに言ってんの?」
「耳を澄ませてごらん?」
「耳を?」
そこで、注意が完全にカナに持っていかれていたことに気づいた。
改めて周囲の自然音に耳をすませば、バイクのような激しい音が遠くの方で響いていることに気づいた。
いや、ブンブンいっているが、バイクと呼ぶにはいささか弱いような気もする。
それに、この耳障りな感じは夏とかによく聞いていたものとそっくりだ。しかし、それとも少し違う気がする。
僕はそこで、顔を洗ってキレイになっている二人の猫娘を見た。
「はちみつのビンはどこにやった?」
「「外」」
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